事業者に補助金3倍…商用車のEV・FCV化、運輸脱炭素の焦点に
運輸部門のグリーン化に向け、商用車対策が大きな課題となっている。二酸化炭素(CO2)排出削減の目標が2030年度に13年度比35%減に対し、運輸部門全体では22年度実績で同14・5%減と堅調に削減が進む。ただ、排出量ベースで運輸部門の4割を占める貨物自動車の取り組みが遅れており、この部分でどれだけ削減できるかがカギとなる。(編集委員・板崎英士)
運輸部門の22年度実績を細かく見ると旅客(マイカー、タクシー、バス、鉄道、船舶、航空)の実績は13年度比で18・0%減、一方で貨物(トラック、鉄道、船舶、航空)は同9・2%減にとどまる。22年度の国全体のCO2排出量に占める運輸部門の排出量は18・5%。このうち自動車が85・8%と航空や鉄道と比べ圧倒的に多く、旅客自動車が47・8%、貨物自動車が38・0%となっている。貨物自動車は国の総排出量では7%を占める。この部分の対策をどう進めるかが課題だ。
国は自動車分野での温室効果ガスの排出量削減に向けては、電動化を軸に水素や合成燃料など多様な技術を組み合わせる方針だ。新車販売では乗用車は35年までに電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、ハイブリッド車(HV)などの電動車率100%を実現。商用車は8トン以下は30年までに20―30%、8トン超の大型車は20年代に5000台の電動車を先行導入する目標だ。これらに加え、燃料電池車(FCV)の拡大や、合成燃料、バイオ燃料などの低炭素燃料を実現したい考え。
23年度の乗用車の新車販売実績は、電動車が全体の53・2%となり、エンジンのみで駆動する内燃機関車を上回った。ただ、商用車は長距離輸送かラストワンマイル(目的地までの最終区間)輸送かなどで車両サイズや走行条件が大きく異なるため、電動化のハードルは高い。近距離輸送用の小型車ではEVの導入が多少進んでいるが、大型車の電動車は皆無に近い。EVは「航続距離が短い」「充電時間がかかる」「導入コストがかかる」「バッテリーの寿命が短く、重いため積載量も減る」などが課題となる。
大型商用車で期待されるのは水素を燃料とするFCVだ。EVと異なり、航続距離や積載量、充填時間などの課題はなくなる。ただ技術的にはまだ発展段階で、車両、水素ともにコストが高く、水素の供給インフラも十分ではない。国は30年時点のFCVの導入目標を、小型トラックで累計1万2000―2万2000台、大型トラックで同5000台としている。FCVは日本が世界に先駆けて開発した技術であり、産業競争力の面からも期待は大きい。
国はまず商用車の電動化を進めるため、事業者がEVトラックなどを導入する際の補助として24年度に前年度比3倍の400億円以上を投じる。物流事業者にとっては働き方改革でドライバーの年間残業時間が960時間に規制される「2024年問題」に対応する中で、脱炭素投資も進めなければならず経営への負担は大きい。大手物流事業者の担当者は「消費者が状況を正しく理解して、どこまで負担してくれるのか。国にはこうした周知や啓蒙活動もしっかりとやってほしい」と本音を漏らす。