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<防災最前線#06>積水ハウス、制震技術で建物変形抑制

東日本大震災を受けて、各社はどう対応したのか
<防災最前線#06>積水ハウス、制震技術で建物変形抑制

「シーカス」の現場設置

 日本の住宅づくりで考慮しなければならないのが地震対策だ。大きな揺れに倒れないという「耐震」性能は建築基準法で義務づけられている。これに加えて近年、注目を集めるのが「制震」技術だ。積水ハウスが開発した制震システム「シーカス」は、特殊な高減衰ゴムが地震エネルギーを吸収し、建物の変形を抑制する。巨大地震発生からインフラ復旧までの数日間を自宅で”在宅避難“するには本震が収まった後も、安心して住み続けられることが前提となる。

 1995年に発生した阪神・淡路大震災。当時、被災地には積水ハウスの施工物件で全壊や半壊はなかったという。だが、少なからず、建物には何らかの損壊が生じたという。

 住人にとってわが家が傷つくのは、さぞ悲しい出来事だったに違いない。同社は「建物への被害を、できる限り防げないか」(総合住宅研究所構造・防災研究開発グループリーダーの谷川清次部長)との思いを胸に、制震技術の開発に着手した。

 最初は鋼材の伸びや変形で地震エネルギーを吸収する「鋼材ダンパー」に注目。だが大地震では変形したダンパーの交換が必要となる。次に取り組んだのが「オイルダンパー」だ。減衰性能を持つオイルダンパーが地震エネルギーを吸収する。大地震後の交換も不要だが、欠点はフレームの幅や厚さが大きくなること。設計の自由度を制限してしまう。

揺れ量2分の1


 曲折を経て、薄くできる高減衰ゴムにたどりついた。地震エネルギーを熱エネルギーに変換して揺れを吸収する。地震が起きるとフレームを補強する鋼管がずれ、鋼管をつなぐゴムが変形。この変形させる力が熱となって大気中に放出される。

 この高減衰ゴム「シーカス60」は、住友理工と共同開発した。一般的な高減衰ゴムでは温度依存性が高く、寒暖で硬さが変化する。これを克服してエネルギー吸収率60%、変形能力720%を実現した。揺れの量を2分の1にするシステムであり、建物の規模に応じて、シーカスの搭載数は変わる。

 実用化に向けて、制震住宅の安全性をどう証明するかがカギとなった。「世の中に評価法が存在しなかった」(同)と振り返る。現在も明確に「制震」を定義するものはなく、各社によって考え方はバラバラ。積水ハウスの制震技術の特徴は、繰り返して使える点にあり、本震後に続く余震にも有効だ。

 普及の契機になったのは2011年の東日本大震災だった。被災地で制震技術を搭載した住宅が無事だったことが評判になり、全国的な防災意識の高まりも背景に、採用は飛躍的に伸びた。震災前の採用率は約4割。これが震災1年後58%、2年後に75%となった。

 積水ハウスは今後、く体だけでなく住宅全体として防災がどうあるべきかを考え、住宅設備やライフスタイルなどを含めた「住宅のシステムとして提案」(同)する方針だ。インフラが遮断されても、太陽電池や蓄電池などを使い、エネルギーを自給自足できる住宅商品を訴求。さらには緊急時、暮らし続けるために必要な水や食料の確保なども研究課題に据えている。
(文=大阪・小林広幸)
日刊工業新聞2016年2月29日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
今後1週間は震度6台の余震があるとのこと。余震での建物の倒壊や看板などの崩落に注意を。

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