成功のカギは?、世界初のフルスケールCCSから得られるモノ
低温・低圧領域で連携
これから世界や日本で立ち上がるCCS(炭素の回収・貯留)を成功させるために必要なものは何か。世界初のフルスケールCCSとなるノルウェー・ノーザンライツの取り組みから得られるものは少なくないはずだ。
川崎汽船の金森聡常務執行役員は、ノーザンライツの取り組みに参加する中で、「特に受け入れる二酸化炭素(CO2)の組成をどうするかがとても重要だと実感している」と話す。工場の排出ガスにはCO2以外にさまざまな成分や水分が含まれる。ノーザンライツではどこまで受け入れが可能か長く議論しており、その結果の公表も行っている。
また、これまで液化CO2のような低温液体を扱っていない企業もCO2排出元として関わるため、さまざまな取り決めやマニュアルも必要だろう。
さらに日本では「CO2回収・液化・積み出しはなかなかのチャレンジになるだろう」(金森常務執行役員)とみる。CO2回収効率の向上という課題だけではない。海外と違い、日本沿岸の工場地帯は工場が密集し、排熱利用なども進んでいる。CO2の積み出しまでに必要な一連の設備を置く場所や熱源などを確保するのは簡単ではない。同じ地区に立地する工場同士の協力も求められる。
また、欧州とアジアではCO2の海上輸送に使う船も異なる。ノーザンライツで採用されたのは商用実績のあるマイナス20度C・2メガパスカルの中温中圧領域で輸送する船だ。2メガパスカルに耐えるためにタンクの板厚は厚く、一度に運べる量は少なめだが、欧州では排出元から圧入先までの距離は短いため、高頻度に輸送してカバーできる。
一方、日本から圧入先候補のマレーシアまでは長距離輸送となるため、大規模輸送船が求められる。そこで期待されているのが、マイナス50度C・1メガパスカルの低温・低圧領域で輸送する船だ。タンクの板厚を薄くしてタンクを大きくし、中温・中圧船の2倍以上の4万―5万立方メートルのCO2を運べる。実用化を目指し、川崎汽船を含む国内海運大手や造船会社が標準仕様や標準船型の共同検討を進めている。
今後、日本でCCS計画を進めるには、CO2排出側の場所などの物理的な制約や競争力のある船の開発などを一つずつクリアすることが重要だ。
難易度の高いCCSに対し、「ノーザンライツは社長を含め一人ひとりが『自分が子孫のために気候変動を止めるメンバーだ』と考えている。こうした理想を持つパートナーとの取り組みにやりがいを感じる」(同)と話す。地球が何十億年をかけて行ってきた炭素の地下貯留を人工的に一瞬で行うという夢の実現へ、さまざまな企業が動き出している。(梶原洵子が担当しました)