毎年下がる薬価…「中間年改定」強まる廃止論の背景事情
疲弊の医薬品業界に物価高・賃上げ
薬価を毎年見直す「中間年改定」の廃止を求める声が強まっている。薬価改定は市場実勢価格との乖離(かいり)を縮小し、医療費の伸びや国民負担を抑制する仕組みだが、隔年から毎年実施に見直されたことで、医薬関連業界からは収益悪化に歯止めがかからないと悲鳴が上がる。物価高にも直面し、政府が旗を振る「持続的な賃上げ」に呼応できない状況にもある。
「物価高騰や安定供給に支障を来しているといった多くの声をいただいている。どう対応するか関係部署と協議の上、進めたい」。福岡資麿厚生労働相は就任直後の記者会見でこう述べた。
医師の処方箋が必要な薬の価格は、政府が公定価格として全国一律に定めている。ただ、市場で取引される過程で医療機関の仕入れ価格が公定価格を下回ることが多い。薬価差を放置すると保険給付が高止まりし、社会保障費用が膨らむ。患者負担軽減を図る観点からも、診療報酬改定と同じく従来2年に一度だった薬価改定を、改定年の間も「中間年改定」として実施する仕組みが2021年度に始まった。25年度はその「中間年」に当たる。
医薬品業界は7年連続の薬価引き下げで、疲弊していると主張する。ジェネリック医薬品(後発薬)を中心とした過当競争や供給不安といった歪みも顕在化している。こうした構造的な課題に原材料価格の上昇と賃上げに対する社会的要請が追い打ちをかけ、もう限界と訴える。公定価格であるだけに、コスト上昇分の価格転嫁が困難な産業特性を考慮すべきと声もある。高齢化に伴う国庫負担の抑制は喫緊の課題だが、メーカー各社の首脳は「そもそもなぜ薬価差が生じるのか本質的な議論が必要だ」と訴える。
政府も看過しているわけではない。24年度の制度改革では革新的な新薬の有用性評価の充実や特許期間中の薬価を維持できるよう新薬創出等加算の仕組みを見直すなど「イノベーションの推進に配慮した」(厚労省幹部)。こうした姿勢について日本製薬工業協会の上野裕明会長(田辺三菱製薬代表取締役)は「薬剤費抑制の偏重からの転換点」と前向きに受け止める。
問題は変化の兆しが抜本的な薬価制度改革につながるかだ。25年度改定のあり方をめぐっては「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に「イノベーションの推進、安定供給の必要性、物価上昇など取り巻く環境変化を踏まえ、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら検討する」と明記された。ただ、日本製薬団体連合会の首脳は「政府はここまで踏み込んだが、中間年改定を廃止するとは言っていない」と警戒感を崩さない。
厚労省は基礎資料となる薬価調査を現在、実施中で、24年末に向けて議論が本格化する。関係業界は働きかけを強めることにしている。