トヨタの新たな仕入れ先支援「寄り添い活動」、受け入れた中堅部品メーカーから漏れた声
改善見直し・人材育成など貢献
トヨタ自動車が新たな仕入れ先支援「寄り添い活動」を本格化している。トヨタの技能員が仕入れ先に赴任し、改善や難加工に共に挑む。トヨタと仕入れ先それぞれにとって、モノづくりとヒトづくりにつながる。同活動は1次取引先(ティア1)だけでなく2次以降も対象。生産現場の力を向上し、サプライチェーン(供給網)の競争力強化や自動車業界の底上げを図る。(名古屋・川口拓洋)
寄り添い活動は長年にわたりトヨタの製造現場を支えてきた河合満エグゼクティブフェローが旗振り役を務める。「自動車業界550万人や仕入れ先のために、技能系が少しでもお役に立てることがあれば」という河合氏の強い思いから始まった。
同社はこれまでも設備保全や災害復旧をはじめ、調達や生産、人事などの部署を通じて仕入れ先を支援する多数の取り組みを展開している。これに加え、寄り添い活動は生産現場の改革と人材育成に主眼を置く。
同活動は2023年から試行的に実施し、24年に本格化。複数の展開事例が出てきた。トヨタの寄り添い活動を受け入れたトヨタ系中堅部品メーカーのファインシンターは「これまで我々のような2次・3次取引先にはなかなか来てもらえなかった。改善が行き届いていない部分を現地現物で教えてもらっている」(安井進執行幹部)と実感する。
3月からファインシンターで腕を振るうのは、トヨタでさまざまな工作機械加工を経験したプロフェッショナルである田代眞一氏。ファインシンターでは足回り部品である「ショックアブソーバー」を製造するための金型などを加工する。
「技能はもちろんのこと、改善の質が違う」と田代氏の働きぶりに舌を巻くのは、ファインシンターDE部の佐藤厚部長。同社にも改善文化は浸透しているが「どうしても工程など目先の改善を優先してしまう」(佐藤部長)という。
一方、田代氏は4S(整理・整頓・清掃・清潔)という基礎から、工程全体を俯瞰(ふかん)した改善、教育などに取り組んでおり「自ら行動して背中を見せている。技術者との意思疎通を含め、我々が変わっていかないといけない」と佐藤部長は語る。田代氏も「(納期など)仕入れ先の苦悩が本当の意味で分かった。自らの技能で貢献できる。ウィンウィンの関係にしたい」と強調する。
かつてはトヨタが仕入れ先を訪問すると、査察のように現場の弱点を指摘され、仕入れ先からは「トヨタが来ると大変」「怖い」といった声が上がることもあったという。トヨタ技能者養成所の深津敏昭所長は「過去のイメージを払拭したい。寄り添い活動は共に汗をかき、仲間にしていただき改善することで、みんなが良くなることを目指す」と説明する。完成車メーカーと部品メーカーのより良い関係づくりに向け、汗を流し、努力する構えだ。
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