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事業承継問題解決へ、政投銀がサーチファンドを運営する狙い

日本政策投資銀行はサーチャーと呼ばれる個人が企業の経営を引き継ぎ、再成長を図る活動を支援している。「サーチファンド」と呼ばれる仕組みで、経営人材不足に悩む中堅・中小企業と、経営者として活躍したい人材を結びつける取り組みだ。日本は中小企業経営者の高齢化が急速に進んでおり、事業承継問題を解決する方法の一つとして注目されている。(編集委員・川口哲郎)

サーチファンドは経営者を目指す個人が投資家の支援を受けながら企業のM&A(合併・買収)などを主導し、自ら承継先の経営に携わる投資の仕組みだ。

商社やコンサルティング業界などで新規事業立ち上げといった一定のビジネス経験を有し、企業経営に意欲を持つ個人がサーチャーとなる。サーチャーがM&A先となる企業を探し、企業とのマッチングの末にM&A実行に至るまでの資金をファンドを通じて投資家が拠出する。

企業オーナーは経営を託しても良いと思える人材にバトンタッチできる。「後継者の顔が見えない」「譲渡後の経営方針が不安」といった従来のファンドや事業会社に売却する場合に起きがちな懸念を解消できるのもメリットの一つだ。

経営者として活躍したい人材がキャリアアップする道も開ける。経営者人材を育成、輩出するためのエコシステム(生態系)の創出につながる。

政投銀はM&A仲介大手の日本M&Aセンター(東京都千代田区)などとサーチファンド・ジャパン(同、伊藤公健社長)を2020年に設立し、サーチファンドの運営に乗り出した。伊藤社長は14年に日本で初めてサーチファンドの事業承継を行った第一人者だ。

サーチファンドは20年に1号、23年に2号を立ち上げ、それぞれ約10億円、約30億円の規模を持つ。政投銀などサーチファンド・ジャパン株主のほか、地域金融機関もファンドに出資している。1号、2号を合わせて7件の投資実績があり、1件は事業会社への譲渡が完了した。

対象は卸売りや住宅リフォーム、厨房(ちゅうぼう)機器の開発販売、美容室といった多種多様な企業だ。年商10億円前後の中小企業が多い。サーチャーが経営を担い、企業価値向上が実現した段階で投資家の資本を還元する。上場をはじめ、サーチャーら経営陣が株式を買い取るといった出口が想定される。

サーチファンドの仕組みは80年代に米国で生まれ、米国では現在までに数百件のサーチファンドが設立。日本でサーチファンドが組成され始めたのは20年前後と、歴史はまだ浅い。国内のファンド数も延べ10本に満たない状況だ。

国内の中小企業経営者の認知度も決して高くない。政投銀でサーチファンド運営に携わる尾島義矢副調査役は「どんな人が社長になるか顔が見えるというのは、非常に好印象を持ってもらえる」と仕組みの利点を挙げ、投資実績を積み上げる姿勢だ。投資実績の拡大によりサーチファンドの存在をアピールしていく。

政投銀はサーチファンドの運営を通じて中小企業の経営により深く入り込み、経験や知見を蓄積する狙いがある。融資だけでなく投資の比重が高まっているためだ。企業投資第3部の荒井誠課長は「投資は資金を出してからが一番重要だ。いかにバリューアップ(価値向上)するかの観点で、経営全体をみる経験は非常に大きい」と語る。

日刊工業新聞 2024年10月08日

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