目玉は歴史的建造物…高級路線で地方誘客、森トラストの独自戦略の狙い
軽井沢・万平ホテル全面改装
森トラストが歴史的建造物を改修・改築し国際水準の高級ホテルへと再生する独自戦略に基づき、ホテル事業を推進している。その一環として、長野県軽井沢町の万平ホテルを10月2日に全面再開する。同社がホテル事業で狙っているのは、さまざまな地方への観光客の誘導。日本各地に国際ホテルを誘致する「ラグジュアリー・デスティネーション・ネットワーク」構想の実現に向けた下地づくりを加速していく考えだ。(編集委員・古谷一樹)
1894年に開業した万平ホテルは、木製フレームが露出したハーフティンバー様式の外観や和洋折衷の内装など洗練された雰囲気が特徴。避暑地・軽井沢の象徴的な施設として、戦前から著名人や政治家をはじめとする多くの常連客を迎え入れてきた。
今回の全面改装では、利用者の半数程度が60―80歳台のリピーターであることを踏まえ、内外装ともに細部にこだわり、従来のデザインや色調をできる限り踏襲。老朽化した部分については、国際水準のラグジュアリーホテルへと進化させるため、断熱や防水、遮音性能を高め、バリアフリー化にも対応した。
国内では万平ホテル以外にも、インバウンド(訪日外国人)の増加や国内での人流の加速に伴い、各地でホテルの開業が相次ぐ。特に再開発ラッシュが続く都心部のプロジェクトでは、高層ビルとセットになった高級ホテルの開発が活発化している。
森トラストが手がける宿泊施設も高級路線と言えるが、他の高級ホテルと一線を画しているのが、歴史的建造物を活用する戦略だ。2015年に京都府の旧宅「延命閣」を活用した「翠嵐ラグジュアリーコレクションホテル京都」を開業。以降、古い建物をホテルに生まれ変わらせるプロジェクトに相次ぎ取り組んできた。
23年には奈良県で旧奈良県知事公舎を引き継いだ「翠嵐ラグジュアリーコレクションホテル奈良」を開業。今冬には修道院だった長崎県の建物を改修した「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」の開業を控える。
同社はインバウンド需要の取り込みをテコに、31年3月期のホテル事業の売上高を現状比約1・5倍の1000億円に引き上げる目標を掲げる。増永義彦常務は「歴史的建造物には娯楽性や感動体験といった要素が多く、特に海外の人にとって(観光資源としての)ポテンシャルが高い」と指摘する。地域にある唯一無二のコンテンツが、今後もホテル事業拡大のカギとなりそうだ。