地政学リスク警戒、三菱商事・三井物産…大手商社、LNG投資活況
大手商社が液化天然ガス(LNG)事業への投資を活発化している。三菱商事がマレーシアのLNG開発事業で権益期限の延長や再参入を決め、三井物産はアラブ首長国連邦(UAE)のプロジェクトに新たに出資参画する。カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)社会への移行期に、エネルギーの安定供給に寄与する低炭素燃料としてLNGの開発を推進する。(編集委員・田中明夫)
三菱商事はマレーシア東部サラワク州で同国国営石油会社ペトロナスが運営するLNG事業に追加投資する。年間生産能力960万トンのデュア事業について10%の権益を2025年から約10年間延長する。同770万トンのティガ事業では23年に4%の全権益が満了していたが、再参入して10%の権益を24年から約10年間保有する。これら2事業への今回の投資額は数千億円とみられる。
三菱商事は25年に稼働予定のカナダのLNG事業などにも参画しており、LNG権益は今回のマレーシア分を含め年間生産能力ベースで25年度にも現状比約2割増の1500万トン程度となる見通し。「LNGはエネルギートランジションの時代における現実解の一つ」(中西勝也社長)とし、権益保有を通じて日本などへのLNG供給を推進する。
世界で10程度のLNG事業に参画している三井物産は7月に、UAEのアブダビ国営石油会社が主導する同国でのLNGプロジェクトへの10%の出資参画を決めた。28年の稼働を予定し、設備投資額は三井物産の持ち分ベースで約5億5000万ドル(当時の為替レートで約880億円)。三井物産は年間60万トンのLNGを引き取る。
住友商事と双日、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は共同で3月に、豪州で26年に稼働する予定のガス田・LNG事業の権益を10%取得した。
LNGはCNとエネルギーの安定供給の両立を支える低炭素燃料として注目される一方、ロシアなどをめぐる地政学リスクの高まりが課題となっている。三菱商事や三井物産が参画するロシアのLNG事業「サハリン2」は供給が継続しているが、22年のウクライナ危機後は供給途絶への警戒が高まる局面があった。
サプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化に向けては、権益拡大とともに供給元の分散がカギとなりそうだ。