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「物流」を経営戦略に!2026年に設置義務付け「物流統括管理者(CLO)」の役割とは

<情報工場 「読学」のススメ#131>『CLO〈Chief Logistics Officer〉の仕事』(森 隆行 著)
「物流」を経営戦略に!2026年に設置義務付け「物流統括管理者(CLO)」の役割とは

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日本ではなじみが薄い「物流統括管理者」

物流の「2024年問題」といわれる労働時間の規制強化が始まって、約半年が経った。今のところ目立った混乱はないように見えるが、トラックドライバーなどの人手不足はなお深刻だ。今後、さらなる労働人口の減少が続くと見込まれる中、対策は待ったなしである。

政府は2023年10月、物流革新に向けて即効性の高い施策を「物流革新緊急パッケージ」としてまとめ、発表した。その一つが、一定規模以上の発荷主、着荷主に対し、2026年から「物流統括管理者(Chief Logistics Officer、以下CLO)」の選任を義務付けたものだ。

CLO設置が義務付けられる企業は、およそ3000社から5000社ほどと考えられているようだ。しかし、そもそも日本では、CLOという役職自体になじみが薄い。具体的に何をする役職なのか。どんな課題があり、何を期待されているのか。まだよく知られていないのが実情だろう。

国内ではCLOに限らず、物流の全般に責任者が選任されることが少なかったことから、CLO設置義務付けによって、必ずしも物流の専門家ではない人がCLOに就くケースが出てくると考えられる。そこで、改めて物流やCLOについて知りたい人にうってつけなのが、『CLO〈Chief Logistics Officer〉の仕事』(同文舘出版)だ。

この本は、物流の専門家ではない人たちに向けてCLOの役割や仕事の詳細、物流の基礎的な知識、物流の諸課題、またサプライチェーンを管理するうえで予想されるリスクやマネジメントなどをまとめて解説している。著者の森隆行さんは、一般社団法人フィジカルインターネットセンター理事長で、流通科学大学名誉教授。

経営視点で「全体最適」を考える物流戦略

まず、「CLO」の定義を見てみよう。フィジカルインターネットセンターは、「持続可能な社会と企業価値向上を実現するために、モノの流れを基軸としたサプライチェーンにおいて、経営視点で社内外を俯瞰した全体最適を図る役割を担う責任者」としている。

責任の範囲については、サプライチェーンを考えればわかりやすいだろう。サプライチェーンは、製品の原材料・部品の調達から生産、販売、回収・廃棄にいたるまで、資材管理、場合によっては財務・会計をも含む広い概念だ。ちなみに、CLOという名称は米国では一般的なのだが、欧州などでは、「CSCO(Chief Supply Chain Officer)」という呼び方をされることもあるという。

ポイントは、「経営視点」で「全体最適を図る役割」ということだ。従来、日本の物流部門の責任者は、あくまで物流の責任者であって経営視点は求められていなかった。しかし、CLOとして定義される役職は役員クラスが想定され、経営の視点が必要になる。

具体例として森さんは、デルコンピュータやZARAを挙げる。2社はいずれも製品をすべて航空輸送している。物流の視点のみからすれば、海上輸送のほうが格段にコストを下げられるのだが、あえて航空輸送を選択しているのだ。顧客に少しでも早く製品を届けるために、コストよりもスピードを優先するという判断は、経営戦略そのものだ。

こうした視点で見ると、物流戦略を経営戦略の一環として成功している企業は多くあることに気づく。例えば直近、国内でも急激に存在感を増している中国発ネット通販の「SHEIN(シーイン)」や「Temu(ティームー)」は、圧倒的な低コストが人気の理由の一つだ。その低コスト実現の秘密は、中国からダイレクトに、世界へ向けて製品を出荷できることにあるとされる。物流戦略なしに、彼らのビジネスモデルは成り立たない。

国内では、「やさいバス」やGHIBLIが運営する「船団丸」のような新しいビジネスの例もある。前者は、地域を巡回する保冷車よって、野菜を生産者から購買者へ効率的に配送し、届けられる物流システムを実現した。後者は、従来は価格のつかなかった魚を、漁師が市場(いちば)を通さずに消費者に直販できる仕組みをつくった。いずれも、物流を経営視点でとらえたからこそ実現したビジネスモデルだ。物流は、使い方次第で新たな価値を創造する武器になることに改めて気づかされる。

共同保管や共同配送で業種を超えた連携を

森さんは、官僚や企業の物流関係者にインタビューを行い、対談の形で本の中に織り込んでいる。それぞれ貴重な考え方が語られているが、興味深いのは、日清食品常務取締役サプライチェーン本部長の深井雅裕さんの話だ。

深井さんによれば、日清食品は2019年ごろにサプライチェーン本部を設置した。従来、物流は「この予算でいつまでに運んでください」といえば、運送会社を通じて「運べるのが当たり前」であり、コスト削減の方面に目がいきがちだった。しかし、「運べる」ことが当たり前ではなくなり、「運べない」リスクが生じたことで、経営課題として認識された。サプライチェーン本部の設置を経て、資材調達、在庫量、生産能力など、部門の壁を越えて全社で連携し、調整する視点が持てるようになったとのことだ。

深井さんはまた、物流対策について「個社」で考えるのではなく、業種をまたいで複数社で連携する必要性についても語る。同業種の連携ではメリットが出にくいとし、異なる業種での共同保管や共同配送が実現すれば、組み合わせが広がり、効率化が進むと述べるのだ。社会課題の解決には、ビジネス界全体での取り組みが求められている。

この本ではほかにも、インターネット通信の物流(フィジカル)に考え方を応用した新しい物流の仕組みである「フィジカルインターネット」の考え方も紹介されていて興味深い。「2024年問題」を機に、物流の見方をアップデートし、将来の物流のあり方について考えてみてはどうだろう。 (文=情報工場「SERENDIP」編集部 前田真織)

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『CLO〈Chief Logistics Officer〉の仕事』
-物流統括管理者は物流部長とどう違うのか?
森 隆行 著
同文舘出版
256p 2,530円(税込)
情報工場 「読学」のススメ
吉川清史
吉川清史 Yoshikawa Kiyoshi 情報工場 チーフエディター
本書で紹介されている「フィジカルインターネット」は、トラックや倉庫といった物流施設の「共有化」、すなわち物流のオープン化を進めるためのシステムだ。共通のプロトコルで、データの塊をパケットとしてやりとりするインターネットの仕組みを「フィジカル」にしたものということだが、単なる物流DXではなく、インターネットの根本思想を物流に移植するという意味で画期的ではないだろうか。インターネットと同様のセキュリティリスクへの対応も欠かせないが、その点でも、これまでに培われたインターネットの知見が活かせる。今後の普及と発展に期待したいところだ。

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