ニュースイッチ

アステラス・中外製薬・エーザイ…製薬、オープンイノベーションで創薬力強化狙う

米にファンド/研究拠点開設

医薬品の開発競争が激化している。新たなモダリティー(治療手段)によるアプローチや希少疾患領域での医薬品開発が活発になる一方で創薬の難易度は増し、自社の技術や研究のリソースだけでは革新的な新薬の創出は困難になりつつある。製薬企業は新たな技術やシーズを獲得する手段として、オープンイノベーションに力を注ぐ。革新的な技術を持つバイオベンチャーやアカデミアと早期から連携し、創薬力強化を狙う。(安川結野)

「医薬品開発は、大手製薬が新規化合物をリサーチして磨く時代から、シーズを他から見つけてくる時代になっている」―。アステラス製薬の後藤正英オープンイノベーションマネジメント長は、こう強調する。これまで医薬品開発の中心は大手製薬企業だったが、2010年ごろからアカデミアやバイオベンチャーによる開発が活発化。16―20年の5年間では、米食品医薬品局(FDA)から承認取得した医薬品のうち、中堅製薬企業やベンチャー由来のものがの7割に上る。

こうした中、製薬企業にとって重要となるのが外部機関と連携するオープンイノベーションだ。多様な人材や技術が集まる地域で早期からシーズの探索を行い、開発力の向上につなげることが求められる。

バイオベンチャーやアカデミアが集中する米ボストンでは、日本の製薬企業もオープンイノベーションの取り組みを進めている。中外製薬はコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)である米国子会社の中外ベンチャーファンド(CVF)を設立。ボストン地域で総額2億ドル(約280億円)のベンチャーファンドの体制を構築し、24年から本格的な投資活動を開始した。

CVF設立の狙いについて中外製薬の奥田修社長は「今まで自前主義にこだわっていたが、さらなる技術革新には中外製薬の外で起きていることに目を向ける必要があった」と説明する。バイオベンチャーへの継続的な投資を通じて情報を収集し、技術や関係性が成熟した段階で共同開発に移すといった選択もしやすくなる。

国内でも製薬企業が他者と協業する動きが加速してきた。アステラス製薬はつくば研究センター(茨城県つくば市)内にオープンイノベーション拠点として「SakuLab Tsukuba(サクラボ ツクバ)」を展開。同拠点に入居するベンチャーやアカデミアはアステラスの設備を活用でき、実験装置を自前で購入せずに研究開発が可能となる。

サクラボ ツクバは、アステラスと連携することを条件とした拠点ではない。しかし後藤オープンイノベーションマネジメント長は「入居する研究者と創薬のノウハウを持ったアステラスの人材との距離が近く、研究支援もできる」とし、人材交流を通じたイノベーションの創出に期待をかける。

オープンイノベーションによる連携促進は、バイオベンチャーの成長にも不可欠だ。医薬品の開発は後期に進むほど費用も増える。バイオベンチャーは大手製薬企業との共同研究によって開発費を確保しやすくなる。バイオベンチャーやアカデミアと製薬企業が資金や拠点を通じて早期から関係を構築することが、革新的な新薬の創出につながる。

日刊工業新聞 2024年09月19日

編集部のおすすめ