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富士通・日立・レゾナック…「ジョブ型人事」導入広がる、中小には〝虎の巻〟も

富士通・日立・レゾナック…「ジョブ型人事」導入広がる、中小には〝虎の巻〟も

従来の日本型の雇用制度では日本企業の競争力を維持するのは難しい(イメージ)

産業界で職務を明確化し成果によって処遇する「ジョブ型人事」の導入が広がっている。富士通は2020年度に約1万5000人の管理職層に、22年度に約4万5000人の非管理職層に導入。日立製作所ではジョブ型人事の骨格となるグローバル人材マネジメントの基盤を12年度から10年以上かけて整備を進めてきた。政府は8月末に先進的な20社の導入事例を取りまとめて公表しており、今後もジョブ型人事の普及を加速させる考えだ。(編集委員・川瀬治)

日本の雇用制度はこれまで新卒一括採用が中心で、終身雇用や年功序列が特徴とされてきた。会社主導で人事異動が行われ、リスキリング(学び直し)ができるかどうかは人事異動次第だったため、従業員の意思によるキャリア形成は行われにくい側面があった。

一方、外資系企業ではジョブ型人事が導入されており、優秀な人材が外資系企業に引き抜かれてしまった経験を持つ国内企業も少なくない。従来の日本型の雇用制度では、日本企業の競争力を維持するのは難しい。こうした危機感から、従業員自らが職務やリスキリングの内容を選択するジョブ型人事の導入が進んでいる。

富士通は事業戦略に沿った「適所適材」の考えを基に人材を配置し、人事部門から各部門に採用や配置に関する権限を委譲した。個人の職責に応じた評価・報酬制度を導入。オンデマンド型学習やポスティング(社内公募制度)など従業員が自律的に学び、キャリアを形成できる機会を増やしている。

海外の企業ではジョブ型人事は一般的であるため、グローバルに事業を展開する企業は世界共通の人事制度を整備する必要がある。日立製作所ではグローバル共通での人材マネジメントを整備することで、多様な人材の登用を促進する狙いだ。14年度から日立製作所本体で「マネージャ」以上の年功的部分を排除し、ジョブ型人事を導入した。15年度からは約30万人のグループ全体の報酬の考え方を「グローバル報酬」として統一している。

事業統合を機に人事制度改革の加速を図った例もある。昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)は23年1月に統合し、新会社「レゾナック」が発足した。持ち株会社のレゾナック・ホールディングス(HD)は統合新会社でグローバル基準の人材マネジメントが必要と判断し、ジョブ型人事を導入。最高経営責任者(CEO)と最高人事責任者(CHRO)による年間100回以上のタウンホールミーティングを実施するなど、統合新会社の「パーパス(存在意義)」や「バリュー(大切にする価値観)」の浸透と実践に力を注ぐ。

大手企業ではジョブ型人事が浸透しつつある一方、中小企業での取り組みはこれからだ。中小企業が導入する上で、政府が取りまとめた「ジョブ型人事指針」は、“虎の巻”となりそうだ。

政府は5日、「ジョブ型人事推進会議」を開き、ジョブ型人事を導入した企業の経営トップ16人と意見交換した。岸田文雄首相は「ジョブ型人事の推進をはじめ労働市場改革は緒に就いたばかり。秋以降もこの流れをしっかり進めていく必要がある」と述べた。日本企業の生産性を向上させるには、成長分野への労働移動の円滑化やリスキリングが欠かせない。10月にも発足する新内閣にとっても、労働市場改革が重要な成長戦略となる。

日刊工業新聞 2024年09月17日

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