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Kindle・大型タブレット・VR…電通大学長が実践する、読書ツールの使い分け

Kindle・大型タブレット・VR…電通大学長が実践する、読書ツールの使い分け

電気通信大学学長・田野俊一氏

ユーザーインターフェースの研究をしているため各メディアを意識している。真面目な本は電子書籍リーダー「Kindle(キンドル)」で読み、実用書はカラーで大型のタブレット端末で読む。仮想現実(VR)のヘッドセット「メタクエスト」は、5面のモニター画面が部屋一杯に広がるイメージだ。プログラミングの本を開きながら、パソコンでプログラミングするのに向いている。マンガも端末を持たずに寝転がって読める。

アナログも紙の手触りを含めて好きで、実は研究室に絵本をいくつか置いていた。人間の頭には体験モードと内省モードがあるという。映画など動画はリアリティーがあり、刺激に反応する体験モードだ。対して紙に文章や数式を手書きするなどの活動は、表現されたものの意味や理由といった「本質」を考える内省モードとなる。絵本は文字が大きく情報量が少なく、体験的だが「なぜ」を考えるツールだといえる。

定番となっているのは宮沢賢治の短編童話『虔(けん)十公園林』の絵本だ。軽度の知的障がいがあり両親の農業を手伝っている虔十が、裏の土地に植林を思い立つ。困難を乗り越えて年月をかけて林ができ、そこで遊んだ子どもたちが社会的に活躍する大人に育つ。「誰が賢いか、そうでないかなど分からない」と皆が思うようになる、という物語だ。

私は仕事の調子が悪い時など、月に1度ほどこの絵本を開く。そして「皆を怒ってはいけない、優しくしよう」と思い直す。また研究室では、意識的に他大学出身者を迎え入れてきた。それぞれによさがあり、どんな成長を遂げるのか分からないものだからだ。

普段の書籍の選択は書評を参考にしての乱読だ。SFや冒険小説は子どもの頃から好きだった。本を手にして勉強中なのは、人工知能(AI)+VR+クラウドのプログラミング。「老いては子に従え」で学長を終えたら、若い人がやりたいことを手伝おうと考えている。

【余滴/絵本好きに共感】

社会はこれまでカリスマ的な強いリーダーを求めてきたが、今は時代の転換期だ。教育機関の大学では人の弱さや迷いに心を配るトップが少なくない。それでも絵本好きは珍しいと感じる。理由をあらためて尋ねたところに出てきた「人には体験モードと内省モードの両方が必要だ」という指摘に、強く共感した。(編集委員・山本佳世子)

日刊工業新聞 2024年09月16日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
読書体験を尋ねる企画記事で、「読書ツールあれこれ」が登場しました。電気通信大の学長で、ユーザーインタフェースの研究者ならではの意外な展開でした。端末特性に合わせて読む本も真面目な本、実用書、プログラミング技術(電通大ですから、一般人が思うより上のレベル)習得の本、マンガと変わると聞いて、「技術の展示会で、来訪者が体験して比べているみたいだなあ」と思いました。記事の中心となる書籍に挙げられたのは、絵本それも、宮沢賢治の中ではマイナーなもの。この個性が電通大! なのですね。

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