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光の当たり難かった部分に新規予算…文科省、中規模設備の導入後押しの狙い

光の当たり難かった部分に新規予算…文科省、中規模設備の導入後押しの狙い

文科省は新しく中規模設備用の予算化スキームを開始する

地域・大学間共用、新スキーム

文部科学省は中規模研究設備や研究開発マネジメント人材などのこれまで光の当たり難かった部分に新規予算を立てる。中規模設備は大学独自で投資し難く、政策支援は薄い。マネジメント人材は若手研究者の育成が先に立ち、後回しになってきた。だがどちらも大学や研究機関の競争力に直結する。予算はスモールスタートだが、多様な現場課題に応え政策のひな形として育つかが注目される。(小寺貴之)

「霞が関対応の人員を何人も抱えるビッグサイエンスにはかなわない」―。ある電子顕微鏡研究者は政策提言しても響かない現状をこぼしてきた。中規模設備はビッグサイエンスの大型施設整備、マネジメント人材は若手研究者育成がまずあり、政策課題の優先順位が上がらなかった分野だ。どちらも現場ニーズが多様で集約が難しい。きめ細かな政策設計が求められ、手間のかかる分野といえる。

だが日本の競争力を体現してきた分野でもある。例えば電子顕微鏡は日本の研究者と企業が二人三脚で開発を進めてきた。日本のメーカー2社が世界シェアを握り、日の丸半導体の興隆を支えた。一方で新薬のドラッグ・ラグのように、最先端技術を開発しても日本の研究者が享受できない課題がある。最先端の電子顕微鏡は10億円以上するため大学にとって高嶺の花だ。製品化されると、まず米国の研究機関が導入する例が少なくない。

日本では開発した研究者との共同研究で最先端技術にアクセスしてきた。東京大学の柴田直哉教授は「金属やセラミックス、樹脂、生体材料などほとんどの材料を我々3人で測定している」と苦笑いする。共同研究の対応力は限られるため、頂は高いが裾野が狭く、先行者利益が行き渡らない構造がある。こうした技術がいくつもあるのが日本の強みであり、課題だった。

そこで文科省は新しく中規模設備用の予算化スキームを始めた。大学から地域や大学間の共用計画を募り、文科省が精査した上で財務省と折衝する。従来は大学が優先順位を付けて要望し、運営費交付金で認められた範囲内で導入装置が決まっていた。2025年度予算の概算要求に28件分の127億円を計上。吉田光成高等教育企画課長は「新しいスキームが認められれば中規模設備に活路が開ける」と説明する。

マネジメント人材へはオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)研修の仕組みを整える。まず大学がリサーチアドミニストレーター(URA)を雇用し、URAの実績のある大学や国研で1年程度実地研修する。企業への共同研究の企画提案など、マニュアル化できないノウハウを伝授する。概算要求では15億円を計上し、研修受け入れ機関は7件、URAの派遣機関は20件を支援する計画だ。

派遣機関は新予算でURAを雇用でき、受け入れ機関は研修体制を整備でき、人が来るため人手不足が緩和される。研修には産学連携や研究企画、大学経営など、各機関の強みが反映される。民間企業における技術営業や開発企画、経営本部のようにURAに多様なキャリアを提示する。

残る課題は技術職員だ。マネジメント人材の政策検討でも議論されたが、技術職員のニーズやスキルが多様なため支援施策の中に収まらなかった経緯がある。そこで中規模設備のスキームに20億円を別立てし、設備導入と併せて技術職員の育成を進めるプログラムを走らせる。生田知子振興企画課長は「博士人材に新しいキャリアを開いてほしい」と期待する。25年度は2件と少ないが、機能すれば他の施策にも広がると見込まれる。

設備も人材もニーズはさまざまだが、光が当たることで必要な支援が可視化され、磨かれていく。政策として育つか注目される。
日刊工業新聞 2024年09月05日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
日本の科学技術政策は研究者と官僚が二人三脚で作っていくため、霞が関対応チームを抱えてこなかった領域が徐々に苦しくなっています。産学連携がうまく機能してきた分野で顕著です。産学での投資と回収、競争原理が働いてきて、国から見ると民間主導でうまく回っているので優先順位が上がらない。中途半端にお金を入れてもやりたいことはできないし欲しいものは買えない。だけど中国の追い上げはものすごい。中規模設備はなかなか難しい領域でした。今回は10億円以下の設備の導入のために地域連携などの管理計画を求めています。検討会では10億円はいまなんとかやりくりして買っている装置群で、本当に欲しいのはこれ以上だという声があったそうです。プロジェクト総額が20億から40億円くらいの開発要素の大きい装置群をどうにかしないといけません。小さくスタートさせて大きく育てる必要があります。それができなければ、大学にとってはいま買っている装置にも連携管理計画が求められ、文科省は厳正な審査をしないといけなくて、双方にとって手間の大きなスキームになってしまいます。毒を詰める前の毒まんじゅうを見ているようです。これで予算が一律八掛けで返ってきたら、大学側も失望して付いてこなくなるかもしれません。予算が増えれば誰も文句を言わないものの、果たしてどうなるのか。新政権が発足すれば、きっとテコ入れの補正予算が組まれるという予測もあり、楽観していてもいいのかもしれません。

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