「東京科学大学」10月誕生、理事長と学長予定者が語る統合の背景と今後の戦略
東京工業大学と東京医科歯科大学が統合し、10月1日付で「東京科学大学」が誕生する。研究力強化という目的や、1法人1大学での理事長・学長体制は、他の国立大学統合とは一線を画す。タグライン「科学の進歩と、人々の幸せと」に向けた思いと戦略について、法人経営を担う大竹尚登理事長と、大学を率いる田中雄二郎学長予定者(東京医科歯科大学長)に聞いた。
―統合の発表から2年。「自由でフラットな組織」「これまでできなかった国立大のあり方を」と口にしてきました。
大竹氏 東工大も東京医科歯科大も、現場重視の実学の大学だ。科学の進歩を社会に還元して成長につなげるため、新大学は「医」と「工」の固定観念にとらわれず、伝統と歴史を広げて重ね、発展させる。私たち2人から新大学全体でこの意識を育む。
田中氏 東京医科歯科大にはかつて、東京大学や早稲田大学と統合の話があった。なぜ今回は流れなかったのか。このままでは社会が大きく発展できない状況だからだ。地球温暖化など世界的な課題の解決に、大学は立ち向かう必要がある。重視するのは議論ではなく対話だ。意見が違うのなら、なぜそう思うかを互いに話して少し時間をおく。その結果、相手の意見を取り入れたり、別の方策を思いついたりと、道が開けてくる。
―国際卓越研究大学への再応募の計画は。
大竹氏 東大など5法人は(国際卓越大の前段階ともみられる)特定国立大学になる。我々もしっかりとしたガバナンス(統治)体制を敷き、新大学発足後に「準特定国立大学」になる申請をする。
田中氏 国際卓越大の認定を目指すことは統合の大きな動機となった。研究力で飛躍し社会に貢献する目的に対し、国際卓越大は有力な手段だ。
―応募は初回が10大学、2回目は8大学の見込みですが、目玉は。
大竹氏 次回は統合の具体的な形を示せる。10月1日発足の「総合研究院」は研究者が約500人、予算は100億円の規模で、研究力強化をリードする存在だ。
田中氏 創薬と医療デバイスの医工連携研究などは病院の近くに拠点を置く。あるニーズを医と工の異なる視点から見て、一緒にシーズを育てれば、社会実装におけるミスマッチを防げるはずだ。
【記者の目/挑戦恐れぬ姿勢、醸成の契機】
大学に対する一般社会の称賛や批判は過度になりがちだが、今回の統合では幸い、前向きな声が大半だ。もちろん考え方のギャップや大学名への不満などは聞かれたが、前例のないイノベーティブな取り組みに臨む以上、食い違いは当たり前のこと。挑戦を恐れない、日本社会が目指すべきマインドを醸成する契機になると期待したい。(編集委員・山本佳世子)