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専門家と非専門家をつなぐ「科学技術コミュニケーション」、北大「CoSTEP」講座の魅力

専門家と非専門家をつなぐ「科学技術コミュニケーション」、北大「CoSTEP」講座の魅力

サイエンスを取り上げたデザインなど、ビジュアル系の学びが人気だ

科学技術の専門家と非専門家をつなぐ「科学技術コミュニケーション」で、社会人と大学院生のスキルアップを長く手がけているのは、北海道大学の科学技術コミュニケーション教育研究部門「CoSTEP(コーステップ)」だ。約20年で修了生は1300人以上。サイエンスのライティングやデザインの成果をウェブマガジン「いいね! Hokudai」で発信できる点も魅力となっている。(編集委員・山本佳世子)

北大CoSTEPの講座の受講生は、対面と、「eラーニング+集中3日間」で年80人ほど。所属は大学や教育・研究機関、自治体、科学館やメディア関係者など多様だ。企業人なら自社のリスクコミュニケーションや科学的根拠に基づくマーケティングなどで、スキルを高めている。

講座が長く続いている理由として「さまざまな場面で通じるスキルの汎用性にある」とCoSTEP部門長の奥本素子准教授は説明する。多様なゲスト講師による座学に加え、演習や実習など実践科目が豊富だ。例えばサイエンスライティングは、研究成果などを取材して分かりやすい文章で記事を執筆するものだ。一般市民と専門家が街中で語り合うサイエンスカフェの企画・実施も定番だ。

近年はサイエンスに関わるイラストやデザインも人気が高い。遠隔地の受講生が集まる3日間は、15分間の動画やポスターの作成やアンケートの実施、ライティング作品の相互レビューなどで盛り上がる。こういった成果物の記事はCoSTEP編集のウェブマガジンで年200本以上、掲載している。

北海道の大学として風土病や獣害問題、再生エネルギーなど、地域志向と持続可能性も意識する。都市部の大学による科学技術コミュニケーションと異なる切り口だ。一方で欧州の状況の調査や、査読付きのオープンオンラインジャーナル「科学技術コミュニケーション」を発行で、レベルの高い社会人を刺激し続けている。

日刊工業新聞 2024年09月10日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
科学技術コミュニケーションは、20年ほど前に文部科学省の振興調整費で東大、早大、北大の3大学が支援を受けたのがトピックでした。私もその頃に取材をしたり、博士研究の一部で査読付き論文を投稿したり、ゲスト講師として顔を出したりして、各大学に関わってきました。やがて同じ科技コミュでも、早大はジャーナリスト養成、東大は学術研究にぐぐっと舵を切り、外からは見えにくくなっています。一般社会に対する果実としては、科学技術のコミュニケーター輩出(ただし職業ではなく、役割です)で、北大コーステップは大変な貢献をしている、と当時の状況も思い出しながら改めて思いました。

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