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医療分野、研究開発の司令塔…AMED理事長が語る設立10年で得た成果

医療分野、研究開発の司令塔…AMED理事長が語る設立10年で得た成果

日本医療研究開発機構(AMED)の三島良直理事長

日本医療研究開発機構(AMED)の三島良直理事長は5年任期の最終年を迎えた。AMEDは医療分野の研究開発の司令塔として設立され、今年10年目を迎えた。総予算に占める運営費交付金が約1%と小さく、理事長の裁量を発揮しにくい。機能の強化と縦割りの解消に向けて、運営の柔軟性をいかに確保するかが課題となっている。

-任期最終年に設立10周年を迎えました。組織マネジメントはいかがですか。
 「着任当初から比べるとずいぶんよくなった。文部科学省と厚生労働省、経済産業省がバラバラに進めていた研究開発プロジェクトが束ねられ、戦略的に研究を進められるようになった。成果は出ている。それでもまだ縦割りが残っている部分がある。AMEDは各省がそれぞれで獲得した予算を配分している。予算はそれぞれ目的が決まっている。その中でAMEDとして主体的に動けているかというと残念ながら課題がある。例えば、各省の事業に近いテーマがあれば相乗効果が出るよう連携し、基礎研究から優れたシーズが出てきたら応用研究段階に進め、成果に応じてさらに加速させたい。連携は既に進めており成果も出ている。だが柔軟性があれば、もっとできると考えている」

-政策や事業は各省で企画されます。企画段階で連携するか、AMEDで連携を試して実績を作らないと政策立案に打ち込めないのでは。
 「事業の柱となる医療研究開発推進事業費補助金の約1250億円は使途が決まっている。補正予算の基金を合わせると2022年度の収入は4821億円。この内、運営費交付金は66億円だった。職員は出向者が中心だ。そのため職員の多くが約2年で入れ変わる。連続性を持たせるためプロパーを増やしたいが、運営費交付金がないと難しい。そのため現場では少しずつできることから進めている。25年度からの第3期中長期計画の5年間では体制作りを進め、できれば第3期の間に再スタートしてほしい」

-研究者へのアンケート調査では管理が厳しいという声もあります。AMEDには3省の事業があり、評価の視点が違うことが負担になっているのでは。
 「23年度から書類の簡素化を進めており、省庁ごとの項目も共通化している。公募資料に重複があった点も改善していて、今後はもっとよくなっていくだろう。また第3期に向けて職員用のマニュアルを作成しており、いいものができつつある。これで出向者が入れ変わっても業務を引き継いでいく体制が進む。同時にAMEDの研究テーマはトップダウンで決まるため、研究者にとっては自由度が小さいという側面もある。国の戦略研究を進めることがAMEDの使命であることは理解してほしい」

-成果はいかがですか。
 「最たる成果は国産の新型コロナウイルスワクチンの供給が始まったことだ。第一三共が開発し、23年11月に新型コロナワクチンとして承認された。2-8度で保存できるため流通させやすい。コロナ禍では日本はワクチンの確保に奔走したが、次のパンデミックではワクチンの供給国になれるだろう。私自身は20年に理事長に就任して以来パンデミック対応が大きな仕事だった。そして22年には先進的研究開発戦略センター(SCARDA)を設置した。平時からワクチン開発に関する情報収集と分析を進め、戦略的研究費配分につなげる」

「そして省庁間の連携が進んでいる。例えば膵がんの体外診断用医薬品の研究開発では、文部科学省の次世代がん医療加速化研究事業で生まれたシーズを厚生労働省の革新的がん医療実用化研究事業に渡して実用化につなげている。この研究開発には調整費を当てている。調整費は研究開発期間の年度途中に予算を前倒しして追加配分し、年度内に使い切る必要があったが、柔軟化できないかと検討してきて、この春の採択課題では3年間に広げられた。ゲノムデータを創薬活用するテーマ、難治がんや統合失調症、心不全などへの挑戦を後押ししていく」

-医療データに関する整備も進んでいます。AMEDが整備する利点は。
 「AMED自身がデータを集めるのではなく、各機関をつなぐ役割を担っている。この春からは全ゲノム解析データのメタデータの横断検索環境などを提供している。AMEDの貢献としては患者さんから利用許可をもらう際のインフォームドコンセントに利用する書式を統一した点が挙げられる。研究データを集めただけでは企業は使えない。第三者提供を担保した形で整備した点が大きい」

-抗体医薬品などバイオ医薬品への対応は。
 「日本は低分子医薬品の研究が強いといわれている。だが核酸や抗体医薬品などの新しいモダリティでは周回遅れになるという危機感がある。低分子医薬品とバイオ医薬品では製造方法が異なる。企業はアカデミアにも期待している。研究論文は出ているもののシーズを渡し切れていないと感じている。AMEDは事業を通して変えていくことができる。基礎から臨床へつなぐ。そのために非臨床試験の設計や試験のプロトコル(手順)作成をパッケージで支援する。基礎の研究者と臨床の研究者が組んで応募してもらいたい。つくづく思うのはいいシーズが出てくるかどうかが最も重要だ。基礎研究への期待は非常に大きいと感じる。画期的な薬は画期的なシーズから生まれる。研究者にはぜひ挑戦してもらいたい」

日刊工業新聞 2024年08月29日の記事に加筆
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
AMEDの苦悩は組織でなく、予算構造が原因といえる。資金配分機関としてプロジェクトを回すだけでなく、司令塔としての機能を求めるなら改善すべきだろう。米国立衛生研究所(NIH)では他分野の博士人材に医学博士を取らせて組織の柱となる人材を育てている。大学や省庁にできないスペシャリストを養成し、国の健康・医療戦略を支えてはどうか。

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