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三井物産は東南アに冷凍食品、双日は米国ですし…大手商社が食品事業攻勢

三井物産は東南アに冷凍食品、双日は米国ですし…大手商社が食品事業攻勢

三井物産はシンガポールの機内食大手サッツと組んで新興国の中食・外食向け事業で攻勢をかける

大手商社が食品事業で攻勢をかけている。三井物産はシンガポールの航空機内食大手と組んで、衛生面や手軽さへのニーズが高まる新興国の中食・外食向けに冷凍食品などを展開する。双日は国内で磨いた水産品の供給力を生かし、日本食の人気が根強い米国ですし市場を開拓する。人口増加が続く地域で、商社の事業創出力やネットワークを活用して付加価値品を展開し、拡大する食の需要を取り込む。(編集委員・田中明夫)

三井物産は世界27カ国で機内食やケータリング事業などを展開するシンガポールのSATS(サッツ)と同国に合弁会社を設立し、三井物産は約40億円を出資して15%の株式を保有する。生活水準の向上などに伴って安全でおいしい食品へのニーズが高まるインドやタイのほか、中国などの市場を深耕する。

1日に約12万食の機内食を製造するサッツは、衛生対応の高さに加え電子レンジで温めるだけで食べられるさまざまなメニューを開発できるのが強み。サッツのケリー・モック社長兼最高経営責任者(CEO)はこの強みを生かしながら、「三井物産と協業することで新たな成長フェーズに入っていける」と説明する。

特にインドでは、三井物産が現地物流大手TCIグループの冷凍・冷蔵物流会社に出資しており、温度管理対応の流通網が発達していない同国を開拓できる余地は大きい。アジア・大洋州三井物産の中條和秀消費者ビジネス開発本部長は「物流で付加価値を創出して事業を伸ばしていきたい」と意気込む。

双日は持ち帰り用すしの製造・販売を手がける米スシ・アベニュー(ミネソタ州)から、同社の全事業を数十億円で買収した。現地のスーパーマーケット300店舗以上にまたがるスシ・アベニューのすし販売網と、双日が日本で蓄積した水産加工品の開発力などを融合する。

米国は移民流入で人口が増えているほか、すし市場ではアボカドを使ったカリフォルニアロールが根強い人気で、握りすしの需要も高まると見込んで参入を決めた。双日は水産品加工のマリンフーズの買収に加え、3月にはロイヤルホールディングスや銚子丸とすし事業の新会社を米国に設立。「事業の塊の形成に向けて着実に手を打っている」(双日の渋谷誠専務執行役員)とし、相乗効果の発揮を狙う。

丸紅は7月にオリーブオイルなど健康に配慮した食用油の加工に強みを持つ米ジェムサ・エンタープライズ(カリフォルニア州)の買収を決めた。丸紅は米国で農業資材販売や畜産事業も展開しており、消費に厚みのある米国で食料事業の基盤を強化しながら、持ち前の販路を生かして国際展開も推進する。

世界的に地政学リスクの高まりなどで経済環境の不透明感が増す一方、人口増加に伴う食品需要の拡大トレンドは確実視されている。そこにニーズを捉えた商品を供給すれば事業が成長する余地があり、商社の食品市場の開拓競争が活発化しそうだ。

日刊工業新聞 2024年08月30日

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