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原発再稼働、司法の判断分かれる。「川内」は差し止め棄却

国のエネルギー政策を混乱させないよう、政府は安全性のより丁寧な説明を
原発再稼働、司法の判断分かれる。「川内」は差し止め棄却

新基準を「不合理とは言えない」と判断(九州電力の川内原発)

 九州電力川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)1、2号機の運転差し止めの仮処分を地元住民らが求めていた即時抗告審で、福岡高裁宮崎支部は6日、住民側の訴えを棄却する決定を下した。両機が運転停止に追い込まれる事態は回避されたが、住民側は最高裁に抗告する方針。原発の運転をめぐる司法の判断は割れており、原発を保有する電力各社にとっては、予断を許さない状況が続く。

 同支部の西川知一郎裁判長は、東日本大震災後に国が新しく定めた原発の規制基準について「不合理とは言えない」との判断を示した。これを受けて九電は「川内原発の安全性は確保されているとの主張が認められたもので、妥当な決定だ」とのコメントを発表した。

 原発の運転をめぐる司法の判断では大津地裁が3月に、関西電力高浜原発(福井県高浜町)3、4号機の停止を命じる仮処分を決定し、一度は再稼働にこぎ着けた同3号機が停止に追い込まれた。

 運転中の原発の停止を命じる仮処分決定が続き、国内の原発がすべて停止する「原発ゼロ」の時代に戻る事態は回避されたが、川内原発の運転をめぐる争いは最高裁に持ち込まれる見通し。原発にかかわる司法の判断が割れる中で、電力各社は大きなリスクを抱えたまま、原子力事業に取り組むことになる。

 電力業界には原発の安全対策や危機管理にかかわる業務で、広域的な協力体制づくりを目指す動きがある。重大事故の発生時に、共同で対処するなどの業界横断的な枠組みを早急に整え、国民の信頼感を高めていくことが望まれる。

川内市長「安全確保を最優先に」


 川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市の岩切秀雄市長は6日、同原発の運転差し止めを認めなかった福岡高裁宮崎支部の決定を受け、「司法判断に関してのコメントは差し控えるが、九電には今後も安全確保を最優先とした安全運転と安全性向上に向けた不断の取り組みに加え、適宜適切な情報提供に努めていただきたい」とのコメントを発表した。

 伊藤祐一郎県知事も「引き続き安全確保を最優先に、慎重かつ丁寧に万全の注意を持って運転するようお願いしたい」と九電に求めるコメントを出した。

 九州経済連合会の麻生泰会長は、川内原発の運転差し止めが棄却されたことについて、「妥当な判断だ。エネルギーの安定供給と経済性の確保は、経済再生において重要課題だ。九電は今後、より一層の安全運転と安定供給に注力していただきたい」とコメントを発表した。

規制委員長「火山対応見直す必要なし」


 原子力規制委員会の田中俊一委員長は6日の定例記者会見で、福岡高裁宮崎支部が規制委の火山影響評価ガイドを不合理と指摘したことについて、「対応を見直す必要があるとは理解していない」と述べた。

 火山影響評価ガイドは原発再稼働の前提となる審査の指針。1万年に1回程度とされる破局的噴火の兆候を観測で把握した場合は、原発の停止や核燃料搬出などの対応を取るよう定めている。

 九州電力は川内原発周辺の火山で過去に発生した破局的噴火による火砕流が、同原発付近に到達した可能性を認めている。
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
今回の福岡高裁による川内原発差し止め棄却の判決は、大津地裁の関電停止の仮処分決定とは違う結果となった。全国での原発運転差し止めの訴訟や仮処分申請の動きが気になる。原子力規制委員会による原発の安全審査とは別に、司法が個々に判断しており、国のエネルギー政策が混乱しかねない。現在、政府は、地球温暖化対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、「地球温暖化対策計画(案)」に対する意見を募集(パブリックコメント)中である。経済界としての原発に関する意見を集約すると、“原子力は、温室効果ガスを排出しないベースロード電源であり、温暖化対策の観点から、必要不可欠の重要な電源として、その重要性を認識し、原子力の事業環境整備を進めるべきである。”ということになる。政府としては、再稼働する原発の安全性をより丁寧に国民に説明する必要がある。

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