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「ペロブスカイト太陽電池」GI基金で社会実装急ぐ、NEDOが考える産業化に必要なこと

「ペロブスカイト太陽電池」GI基金で社会実装急ぐ、NEDOが考える産業化に必要なこと

NEDOの山田宏之再生可能エネルギー部長(左)、再生可能エネルギー部の松原浩司上席主幹(中)、鈴木敦之主査(右)

次世代太陽電池の本命とされ、実用化が近づく「ペロブスカイト太陽電池」。薄くて軽く、曲げられる特性を持たせられるため、太陽電池の設置場所を広げられるとして、カーボンニュートラルのカギになる技術として期待される。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、ペロブスカイト太陽電池の事業化を目指す積水化学工業東芝などの研究開発を、グリーンイノベーション(GI)基金などの枠組みで支援し、社会実装を後押している。その取り組みの現状や今後の展望、日本企業の競争力などについて、山田宏之再生可能エネルギー部長や再生可能エネルギー部の松原浩司上席主幹、鈴木敦之主査の3人に聞いた。(聞き手・葭本隆太)

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松原浩司上席主幹

-GI基金による取り組みの現状を教えてください。
 松原 各社とも当初の計画通りに研究開発が進んでいます。特に積水化学工業は(生産効率が高いとされる、ロール状の長いフィルムを巻きだして成膜・加工する)ロール・ツー・ロール(R2R)の製造プロセスを用いて、30cm幅のフィルム型ペロブスカイト太陽電池を生産する技術を確立しています。現在はそれを1m幅に広げる取り組みを、計画を前倒しして進めています。

-GI基金では、実際に設置して性能などを検証する実証事業を今年度から支援します。
 松原 実証事業は(完成品メーカーによる)ユーザー企業との連携が要件になります。(それにより)誰がどこでどのように利用するか、といった要件を踏まえて仕様を整理して最終製品に近いものを実証し、そのまま社会実装につながれば、と期待しています。(初回公募は3-6月に行い、採択先は審査中ですが)公募は複数回行う予定です。

-海外企業の動向をどのように見ていますか。
 松原 中国企業が事業化に向けて大規模な工場を建設する、といった発表を色々とされていますよね。それらを聞くと(日本企業による社会実装を)早く進めなければ、という気持ちにはなります。ただ、実際の製品がなかなか出荷されてこなかったり、(工場建設を)中止したりするケースがあるとも聞きます。実態はなかなかわかりにくい状況です。

山田 太陽電池は生産された瞬間だけでは評価できません。仮に(中国企業が)大きいモジュールの製品を生産できたと発表したとしても、その変換効率や寿命をしっかり見ていく必要があります。そのため(中国企業などの研究開発状況に関わる情報に)一喜一憂しないようにしています。とはいえ、研究開発が非常に盛んという状況は注視しています。

-日本企業は焦るべきでしょうか。
 山田 のんびりと進めているわけにはいきません。目的はカーボンニュートラル。それに貢献するためには産業として維持される体制を構築しなくてはいけません。国際競争力は必要です。ただ、焦りすぎは禁物です。日本製だから購入しようというユーザーもいる中で、性能や納期などに関わる信頼を損なうような状況は避けなくてはいけません。

山田宏之再生可能エネルギー部長

-国際競争において日本製に対する信頼は強みになりますか。
 山田 日本製を信頼するユーザーが、一定程度はいるということです。日本製だから高い価格で買ってくれるだろうといった甘えは持つべきではないでしょう。

-中国企業なども研究開発を活発化する中で、日本企業の勝ち筋はどこにあると思いますか。
 松原 一つはフィルム型でしょう。ペロブスカイト太陽電池は、耐久性の向上が実用化に向けた課題になっています。フィルム型における(耐久性を高めるための)封止は、その難しさが指摘されています。日本は化学メーカーが強く、積水化学もその一社です。高い耐久性を持ったフィルム型ペロブスカイト太陽電池を積水化学が実用化できれば、先行のアドバンテージがとれるのではないでしょうか。

山田 何をもって勝ち筋とするかは難しいです。コストを下げるためにスケールを求める場合、海外市場の開拓は大事ですが、海外に進出していないから勝てていないというわけではありません。シェアが小さくても利益を上げている企業はありますから。また、エネルギー安全保障の観点では、自前で技術を持っており、それが自立的な産業として存在している状態が構築できていれば、重要な価値になります。

いずれにしても(GI基金の支援を受けた積水化学や東芝などの)各社はそれぞれ事業の構想を持って研究開発を進めています。NEDOとしては、彼らが定義する成功に向けて進捗状況を確認し続けます。

-ペロブスカイト太陽電池は薄くて軽く曲げられる特性を持たせられ、これまで置けなかった耐荷重の低い屋根や壁面などへの設置が期待されます。一方、化合物系のCIGS太陽電池など他の薄膜系も同様の設置が可能で、一定の性能を持っています。その中で、ペロブスカイト太陽電池の研究開発に注力する理由は。
 松原 NEDOは必ずしもペロブスカイト太陽電池に絞って支援しているわけではありません。ただ、ペロブスカイト太陽電池は(2010年代に)変換効率が急上昇し、(小面積セルの最高効率は23年12月時点で26.1%と)他の薄膜系と比較して最も高い効率が出ています。また、製造工程に高温プロセスが入らず、低コスト化できる可能性も期待する理由です。

山田 技術としては(他の薄膜系も)フラットに見ていますが、ペロブスカイト太陽電池は(その変換効率などの性能から)期待値がやはり高いです。2050年のカーボンニュートラルの貢献に間に合う、産業化を目指す技術として(過去10年間に性能が著しく向上した)ペロブスカイト太陽電池が、今この瞬間に投資対象としてマッチしたとも言えます。

-ペロブスカイト太陽電池における日本の優位性として、政府はその主要原料の「ヨウ素」について高い生産シェアを持つ点を上げています。
 山田 現在主流のシリコン太陽電池の原料サプライチェーンはすべて中国にありますよね。それをデメリットと捉えると、ペロブスカイト太陽電池はその課題が解消されます。産業を作るという観点では、メリットになります。

鈴木敦之主査

-中国企業は、シリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池を積層したタンデム型の研究開発が活発と聞きますし、市場も大きいと見られています。タンデム型の研究開発に対する支援についてNEDOはどのように考えていますか。
 鈴木 タンデム型はCIGSなどの化合物系と、ペロブスカイト太陽電池を積層する取り組みなどを後押ししています。タンデム型の一番のメリットは高効率化です。それを生かすため、これまでは面積の都合で置けなかった、車載や小さな屋根などへの設置を狙って支援しています。シリコン太陽電池を置き換える市場は中国企業などが狙っており、非常に競争が激しくなると予想されます。そことがっぷり競合するのではなく、新しい市場を開拓することが目指すべき方向だと考えています。

-ペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けてNEDOは関連する法規制の調査も進めます。
 鈴木 ペロブスカイト太陽電池はこれまで置けなかった場所への設置が期待されます。その際に建築基準法や消防法などの規制が関わってきます。例えばフィルム型の場合、その可燃性が問題になり得ます。そのように、想定される市場によってどのような規制が関わってくるかを整理します。

-今後の産業化に向けて重要なことは。
 松原 企業は実用化に集中していますが、その際に人材育成がないがしろになってしまうと産業としてはいずれ衰退してしまいます。(産業化以降の)後ろの方もしっかりと見ていかなくてはいけません。

山田 長い歴史を持つシリコン太陽電池も、まだ進化が続いています。ペロブスカイト太陽電池の歴史は始まったばかりです。その先はまだ長いと考えると、持続性は大切で、それを支える人材が非常に大事になります。人が育つ環境がなければいけないと思います。産業化に成功し、大学の研究室で未来を語れるようになれば、学生も増えるでしょう。NEDOは(企業や大学などの研究開発を支援することで)そうした流れの創出を後押しできるのではないかと思っています。

【お知らせ】新刊「素材技術で産業化に挑む-ペロブスカイト太陽電池」

<販売サイト>
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<書籍紹介>
次世代太陽電池の本命「ペロブスカイト太陽電池」の実用化が近づいている。その産業化のカギは、素材の製造やそれを扱う技術が握る。取材を重ねてきた著者が、ペロブスカイト太陽電池をビジネスの視点で捉えつつ、技術的解説や日本企業と世界市場の動向をまとめるとともに、ペロブスカイト太陽電池の誕生や、その実用化への舞台裏を詳らかにする。技術監修はペロブスカイト太陽電池の“生みの親”である宮坂力・桐蔭横浜大学特任教授。
著者:葭本隆太
技術監修:宮坂力
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,980円

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