愛知県は自動運転や飛行ロボット（ドローン）など次世代モビリティーの社会実装に向けた実証実験を本格化している。日常生活の利便性向上や緊急時の対応など、実際の利用場面を想定し事業可能性を探る。次世代モビリティーのスタートアップや、既存の技術を生かして新規事業として参入する県内企業が実証に参画。技術課題を抽出し、今後の製品・サービス改良につなげる。（名古屋・増田晴香）

【自動運転】　コミュニティーバス、技術・安全面検証

愛知県は２０１６年度から自動運転の実証実験を実施し、技術向上や社会的受容性の向上を図っている。事業化に向け、複雑な道路環境下や夜間、雨天時の運行などあらゆるケースを用意する。

２４年度内は県内２カ所でコミュニティーバスの自動運転化を想定し、技術面、安全面を検証する実証実験を行う。ＮＴＴコミュニケーションズ（ＮＴＴコム）を幹事会社とし、関連技術を開発する企業が参画する。

中部国際空港や愛知県国際展示場がある常滑市では、公道で一般客向けにコミュニティーバスを定期運行し、現行のバスと同等のサービスが可能かを確認。長久手市では愛・地球博記念公園内の閉鎖空間で、歩行者が行き交う環境での車両と歩行者の共存について検証する。

両実証に参画するアイサンテクノロジーは、自動運転車両の提供と３次元（３Ｄ）マップ作成を担う。同社は測量ソフトウエアなどを手がけ、その技術を生かして自動運転に必要な高精度３Ｄ地図データを作成する。画像やレーザー点群、全地球測位衛星システム（ＧＮＳＳ）位置情報などを使い、道や周辺環境などをデータベース化する。

車線やガードレール、道路標識、横断歩道などさまざまな情報を記録している。同社のマップは誤差が少ないことや豊富な自動運転の実証実績が強み。普及に向け、マップ製作を自動化しコストの低減にも取り組む。

長久手市の実証に参加する東海理化は、乗客安全支援システムや遠隔監視システムを検証する。乗客安全支援システムはバスに複数台のカメラを設置し、乗客の姿勢を検知する。「乗客がつり革をつかんでいない」「不安定な座り方をしている」といった場合などに遠隔監視員に知らせ、車内でのけがや事故を防ぐ。

遠隔監視システムは車両の外側に設置したカメラの映像を合成し、リアルタイムで遠隔監視センターに伝送。なるべく時間差を発生させずに運行状況の確認を可能にする。

【ドローン・空飛ぶクルマ】　医療物資輸送に可能性開く

ドローンや「空飛ぶクルマ」は２６年度の実装を目指し、「物流」「人流」「災害対応」といったテーマで実証を進めている。２３年５月、次世代モビリティーを県の基幹産業とするプロジェクト「空と道がつながる愛知モデル２０３０」を開始した。

２３年度は日本自動車工業会（自工会）主催の「ジャパンモビリティショー２０２３」に出展し活動を周知したほか、県内各地で物資輸送やデジタルマップ活用の事業化可能性調査を行った。豊田市の山間で実施した実証では、ラリーイベントで運転手が重傷となった場面を想定。ドローンで仮設診療所に不足する物資を輸送した。振動や温度変化に弱い医療物資の品質を保てるかなどを検証した。

２４年度は西尾市や新城市でドローンを活用した物流サービスの長期事業化調査を行う。１０月には西尾市の一色港と佐久島の間の海上で、医療品や日用品、特産品などを配送する。定期配送に加え、緊急時のオンデマンド配送の組み合わせによる利便性や採算性を検証する。

使用するのはプロドローン（名古屋市天白区）製の配送用ドローン。最大離陸重量が２５キログラムを超える無人航空機としては、型式認証の申請は日本初となる。

新城市でも同機を用い１２月に河川上空を航路とした配送を検証。一度で複数の目的地に配送することで効率向上を図る。西尾市での技術検証の結果に加え、飛行プランの自動作成システムを使用し、最適な飛行ルートを作成する。

このほか人流の領域では遊覧飛行の離着陸場候補地を洗い出し、事業化調査を行う。災害対応の領域では、ドローン活用の課題抽出やデジタルマップ活用の検討を実施。また将来の基幹産業化を見据え、サプライチェーン（供給網）構築や人材育成にも取り組む。

大村秀章県知事は「次世代『空モビリティー』の社会実装の早期化を図るとともに、自動運転車など『陸モビリティー』との同時制御による愛知モデルを構築したい」とイメージを語る。