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「3Dデジタルツイン」で、日本の製造業の強みをそのまま活かすDXを実現できるか

<情報工場 「読学」のススメ#130>『製造業のDXを3Dで加速する』(鳥谷 浩志 著)
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いまや不可避な製造業のDX

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を頻繁に見かけるようになってしばらく経つ。製造業におけるDXについて言えば、ドイツが国をあげて取り組む「Industrie4.0」を提唱したのは2011年であり、すでに10年以上が経過している。では、日本の製造業のDXは、どこまで進んでいるのだろうか。

自動車や家電をはじめ、日本の製造業は「強い」といわれてきた。DXについてもその強さは発揮され、最終製品を製造する大手メーカーでは、取り組みが進んでいる。だが、製造業DXには、設計、生産、販売、保守、サービスまでの全工程のDXを実行しなければ効果が見込めない。さらに、多くのサプライヤーや協力会社とのデータ統一も必要だ。これは簡単なことではない。

とはいえ、ドイツの例からわかる通り、世界で互角に闘うためには、日本の製造業にとってDXは不可避である。サプライチェーンの末端の企業にまでDXが行き届けば、その効果は絶大だ。では具体的に、製造業DXをどのように進めていけばいいのだろうか。

 『製造業のDXを3Dで加速する』(幻冬舎メディアコンサルティング)は、製造業におけるDXを加速するために3Dの技術を活用すべきであるとし、具体例をとりあげながらその効用を説いている。

著者の鳥谷浩志さんは、リコーで3Dの研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量3D技術である「XVL」の開発指揮後、製造業のDX推進に向けて奔走してきた。

日本の製造業の強みをそのまま活かせるDXの実現

鳥谷さんは、製造業が商品を開発・生産する一連の業務プロセスにおいて、部門間で3Dデータが2Dへ、あるいはデジタルデータが紙へと変換されるといった「無駄」が多いことを指摘し、こうした状況を「デジタル家内制手工業」と呼んでいる。つまり、「手仕事」が多く効率が悪いという意味だ。

DXの必要性がいわれる一方で、いまだにこのような非効率なことが行われているのだ。しかし、驚かない人も多いのではないか。

実際、2020年の「ものづくり白書」によると、協力会社への設計指示は、3Dデータで渡すところが15.7%、2Dデータで渡すところが23.8%、図面で渡すところが54.3%だという。前工程で設計のデジタル化が進んでも、生産技術、工場、販売、保守、サービス部門などの後工程では、旧態依然の2Dや紙の指示書が当たり前に使われている状況なのだ。

つまりIndustrie4.0が進むドイツに比べて、日本の製造業DXがいまだに遅れている理由の一つは、「標準化」にあるようなのだ。ドイツをはじめ欧州各国はルールづくりが得意であると、よく指摘される。それに対して日本企業は「自前主義」に陥りやすいためにDXが進みにくいと、鳥谷さんは指摘している。

鳥谷さんによると、DX成功の本質は、「統一フォーマットによる部門間のデータ流通」であり、日本の製造業の強みをそのまま活かせるDXの実現をめざすべきなのだ。

では、日本の製造業の強みとは何か。すなわち「現地現物による擦り合わせによる品質の造り込み」や「複雑な図面を読み解く高度な現場力」だ。そこで、これらがそのまま活かせるデジタル手法である「3Dデジタルツイン」がポイントになる。ラティス・テクノロジーのXVLと呼ばれる3Dデータの軽量化技術を使えば、3Dデジタルツインを実現できるという。さらに、3DデジタルツインのXVLフォーマットを、部門を越えて流通させることで、生産技術や工場、サービスのDXも実現させることができる。

開発からサービスまでデータを一気通貫させることができれば、効率が飛躍的に高まることは容易に想像がつく。さらに、サプライヤーや協力会社ともデータ連携していくことで、日本の製造業全体の競争力の底上げにつながっていくだろう。

製造業DX成功はトップダウン20%・ボトムアップ80%

問題は、DXを誰が、どのように推進していくかだ。これも「ものづくり白書」によると、DXが進まない要因の上位に、データ連携できる人材がいない、知識がない、理解がないといった人材に関するものが多くあがっている。

近年、日本でもCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)を設け、DX推進をトップダウンで進める企業も増えている。ただ、とくに日本の製造業のように現場が強い企業の場合、トップダウンと同時にボトムアップの推進力なしに改革は進まない。

鳥谷さんは、製造業DX成功は、「トップ20%、ボトム80%」のバランスではないか、と記している。トップが現場の動機付けをすると同時に、現場の改革は現場を誰よりも知るメンバーが推進メンバーとなって強力に牽引しなければならない。

なお、改革を進めようとすると、多かれ少なかれ反対勢力が生じるものだ。変化を嫌い、これまで通りのやり方に固執する人は出てくる。そのとき、デジタル化の正当性にお墨付きを与え、一気呵成に、かつ全体最適を目指してバランスをとりながら組織的にDXを進めることが必要になる。さらに、DX推進者を相応に評価する仕組みも必要になろう。これらは「トップ20%」の仕事ではないだろうか。

本のなかでは具体例として、アルミフレーム構造材の業界でナンバーワンのSUS株式会社、ガソリン計量器大手のタツノなどの製造業×3Dの取り組みが紹介されている。実際の取り組みから、誰が何を進めるのか、どこから始めるべきで、何が成功のポイントになるのかなど、参考にすることができるだろう。

労働力の減少が進むなかで、製造業にとって人手不足対策としてもDXは必須だ。「デジタル家内制手工業」の心配があると感じたら、まずは一読をおすすめしたい。(文=情報工場「SERENDIP」編集部 前田真織)

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『製造業のDXを3Dで加速する』
-デジタル家内制手工業からの脱却
鳥谷 浩志 著
幻冬舎メディアコンサルティング
200p 990円(税込)
吉川清史
吉川清史 Yoshikawa Kiyoshi 情報工場 チーフエディター
認知心理学の用語に「生存者バイアス」というものがある。過去の成功体験にばかり目を向けてしまう認知の歪みを指す言葉だが、これまで「小さな成功を積み重ねなんとかやってきた」と自負する企業やチームは、生存者バイアスから改革の必要性を感じづらく、DXを進んで行おうとしない。どれだけ便利で使いやすいデジタルツールを提案されようとも、「今ので十分」と感じられ、導入が進まない。DXの入り口にも立てないということになる。まず必要なのは意識改革というアナログな取り組みであり、結局、DXのカギは「人間」ということになるのだろう。

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