ニュースイッチ

渋谷・築地・浜松町…「東京」大規模再開発、エリアの特色を探る

渋谷・築地・浜松町…「東京」大規模再開発、エリアの特色を探る

芝浦の再開発プロジェクト。水辺に面したバルコニーや緑に囲まれたテラスなどを設ける(イメージ)

100年に一度と称されるほどの大規模再開発が続く東京。2024年以降もその動きが止まることはなく、さまざまなエリアでプロジェクトが進行中だ。いずれもオフィスや商業施設、ホテルなどで構成する大型複合施設を中核としている半面、歴史や文化に基づく地域特性を街づくりに反映させることによって、それぞれのエリアが独自性を打ち出そうとしている。人の呼び込みやにぎわい創出のカギとなる各エリアの特色を探る。(編集委員・古谷一樹)

東京の再開発プロジェクトの多くが、街の魅力や国際競争力の向上を目的としている。人流の加速や街全体の活性化といった効果を引き出すため、各エリアが競い合うように大型のオフィスや商業施設、高級ホテルなど多種多様な施設を設けている。

こうした中、日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門の高野寛之プリンシパルは最近の傾向の一つとして「(再開発エリアが)都心の一等地から港湾寄りになってきた」と指摘する。水辺で過ごすことの快適さへの関心や舟運の活用機運の高まりと相まって、今後も注目を集めそうだ。

また従来の再開発ではビジネス面での位置付けが大きかったのに対し、今後ニーズが高まるとみられるのが観光面での機能強化。インバウンド(訪日外国人)の増加傾向が続く中、エンターテインメントを含めた文化的な観点でも付加価値の高い街をつくり、「消費の拠点となることが重要になってくる」(高野プリンシパル)と分析している。

渋谷/若者文化を世界に発信

2023年11月に完成した「渋谷サクラステージ」。渋谷の再開発の「ラストピース」として注目を集めている。

「世界中から多種多様な人々が集い交わることで、音楽やアート、スタートアップなどの新しい文化やビジネスが生まれる」。東急不動産ホールディングス(HD)の西川弘典社長の期待感を形にしたのが、7月下旬に37店舗が開業した商業エリアだ。

書店に併設し、会議室も備える「SHARE LOUNGE」

若者が多く集う渋谷の独自文化の創出や発信の場に位置付けるのが、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(東京都渋谷区)が運営する店舗だ。渋谷エリア最大級の書店に併設した「SHARE LOUNGE」には、Wi―Fi(ワイファイ)や電源を完備した一人用の席や個室、会議室を備えている。

イベントスペースや拡張現実(AR)など最新のデジタル技術を体感できるフロアも設置。リアルとデジタルの両面で、日本のコンテンツやポップカルチャーを世界に発信していく。

浜松町/広場に大名屋敷の面影

増上寺の門前町として江戸時代に観光の中心的役割を果たし、明治期には迎賓館で国内外の賓客を歓待した浜松町。現在、世界貿易センタービルディング(東京都港区)、鹿島、東京モノレール(同港区)、JR東日本による「世界貿易センタービルディング本館・ターミナル」の建て替えプロジェクトが、27年の開業に向けて進行中だ。

ターミナル7階に整備する屋上広場(イメージ)

荒川和樹世界貿易センタービルディング開発企画部次長が「おもてなしの精神を継承し、推進していく」と話すように、これまでの歴史を踏まえ、さまざまな仕掛けを計画している。その一つがターミナル7階の屋上広場。かつてこの地にあった大名屋敷・庭園の池泉形状をオマージュした大芝生広場を配置する。

本館2階には、日本各地の新たな魅力や楽しみ方を、インバウンドや国内旅行者に発信する「観光プレ体験施設」を整備。日本各地の魅力を紹介し、現地への訪問意欲の喚起を図る。

芝浦/舟運活用し都心・湾岸つなぐ

「水辺の可能性を生かしつつ、ベイエリアと都心部をつなぐ街にする」。野村不動産の松尾大作社長は、JR東日本と共同で推進している芝浦の再開発プロジェクトの街区名称を「BLUE FRONT SHIBAURA(ブルーフロント芝浦)」に決めた背景をこう説明する。

街づくりのポイントと言えるのが、新たな交通手段として期待されている舟運の活用。都内有数の舟運ターミナル「日の出ふ頭」や、芝浦エリアを流れる「芝浦運河」に近接する特性を生かし、船着き場の整備や舟運の新航路開拓などを進めていく。

SとNの2棟のうち、S棟の高層階には日本初進出のラグジュアリーホテル「フェアモント東京」が25年度に開業。運河に船着き場を設け、ホテルの専用船によるクルージングサービスを提供する。また飲食店などが入る低層部には水辺に面したバルコニーや緑に囲まれたテラスなどを設け、自然を感じられる空間とする計画だ。

築地/市場跡地にスタジアム

食の街「築地」の市場跡地を再開発する「築地地区まちづくり事業」。同事業を手がけるのは三井不動産を代表企業とする計11社の企業グループだ。

三井不動産の植田俊社長が「東京や日本の国際競争力を左右する重要なプロジェクト」と強調するように、総事業費が約9000億円に達する同事業の提案内容は盛りだくさん。38年までの全面開業に向け、約19万平方メートルの広大な敷地にあらゆる施設を建設する。

5万人収容可能な多目的スタジアムの入口(イメージ)

特に注目を集めるのが、約5万人を収容する屋内全天候型の多目的スタジアム。可動席と仮設席を組み合わせ、客席やフィールドの形状を用途に応じて変えられる。野球やサッカー、バスケットなどのスポーツに加えて、音楽イベントや展示会での利用も想定している。

もう一つの目玉が、築地場外市場との連携や食文化の発展を促すイノベーション拠点「築地クリナリーセンター」。日本の食文化や「築地ブランド」を発信する機能を担う。

日刊工業新聞 2024年08月12日

編集部のおすすめ