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トップ10%論文、日本は下降線…論文の被引用に「地殻変動」

中国・グローバルサウス台頭 NISTEP調べ

文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の調査で、科学論文の被引用数構造が地球規模で変化していることが明確になった。中国やグローバルサウス(南半球を中心とした新興・途上国)が台頭し、中国とグローバルサウス内での被引用数が伸びている。論文の被引用数は研究への注目度を表し、“質”を測る指標として使われてきた。指標の意味合いが変わっている。(小寺貴之)

NISTEPが論文や特許などの定量指標で科学技術活動を分析する「科学技術指標2024」を公表した。20―22年の総論文数と、被引用数の多いトップ10%論文、トップ1%論文は、それぞれ5位、13位、12位と対前年と変わらなかった。トップ10%論文では4位にインド、12位にイラン、15位にサウジアラビアが入っており、グローバルサウスの成長を表している。

国ごとにどの国から引用されているか調べると、自国と中国、グローバルサウスから引用されている割合がインドでは64%、イランは68%、サウジアラビアは70%を占めた。

00―02年の被引用数構造は欧米先進国が論文の産出と引用の中心だった。20―22年では中国から米国を超える論文が生み出され、トルコや韓国、グローバルサウスの国々の論文が引用されるようになった。米国から引用されたトップ10%論文を集計すると日本は9位でインドが12位、イランは17位と後退する。

どの国から被引用数を見るかによって結果が変わり、トップ10%の意味合いが変化している。中国は自国からの引用が62%と突出するが、それが論文の質を表すわけではない。伊神正貫科学技術予測・政策基盤調査研究センター長は「今後の評価にはトップ10%論文以外の指標も必要になる」と説明する。

日本としてはトップ10%論文の比率が減っていることと、被引用数の多角化の両方に対応する必要がある。日本の総論文数に占めるトップ10%論文の割合は00―02年は6・7%、10―12年が6・7%、20―22年は5・1%と減った。論文の注目度と質は必ずしも一致しない。だが日本の研究が世界に認められない状況があれば改善する必要がある。

また日本は先進7カ国(G7)の中では最も中国とグローバルサウスからの被引用率が大きく、バランスがよいともいえる。政府は日本人研究者の国際活動を支援する施策を強化している。各学術コミュニティーに人を送り込み、実態把握やパートナリングを進めることが求められる。

日刊工業新聞 2024年08月12日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
トップ10%論文はいつまで評価指標として機能するのだろうかと思います。トップ10%論文は国際卓越研究大学のKPIに使われていて、25年後もKPIとして使うのかと聞くと、たくさんあるKPIの一つにしか過ぎないと返ってきます。東北大は卓越大25年目には年間6000本のトップ10%論文を書くことになっていて、発行する論文の25%がトップ10%論文になる計算です。現在の東北大は9.8%、日本全体では5.1%です。数字だけを追いかけても、結局なにが達成されたのかわからなくなりかねません。被引用数は伸ばしていくとしても、どこから引用されているのか分析する必要があり、それはNISTEPのような第三者機関が卓越大群を評価することになると思います。NISTEPは前回の調査で、イランを見て何か起きているとつかんで、今回それがほぼ確定しました。先進国から見ている学術コミュニティと、グローバルサウスから見た学術コミュニティは違う。日本の研究はまだまだやれていると主張する大御所は、自身の先進国中心コミュニティでの経験で発言しているのではないか。先進国とグローバルサウスでコミュニティが分断されているのかどうかは答えがないけど、エコシステムとしては別物ができあがってきていて、被引用数を稼ぐための仕組みと切り捨てて済むようにも思えないということまできました。半導体関連の学会など、米中対立の舞台になっている分野では米中研究者が互いに互いの学会に出られなくなっていると聞きます。マクロの分析に個々の分野の状況を反映できるのか。その上で研究力は計れるのか。なんとも言えない指標をKPIに使うと決めた以上、科学計量学に人を当てて次の指標を開発したほうがいいように思います。

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