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製造業、国内回帰…東日本で誘致活発化

製造業、国内回帰…東日本で誘致活発化

茨城県が開発中の工業団地「常陸那珂工業団地」

地政学リスクの高まりやグローバルなサプライチェーン(供給網)の見直しなどで製造業に国内回帰の動きがある。自治体が工場誘致を積極化している中、経済産業省がまとめた工場立地動向調査(2023年1月―12月)の立地件数で東日本地域からは茨城県(1位)、群馬県(4位)、栃木県(5位)、北海道(同)がトップ10に入っている。各自治体はそれぞれの立地特性を生かして誘致に取り組んでいる。(特別取材班)

工場立地/上位5位に1道3県

「2024年版ものづくり白書」によると、調査対象400社(複数回答可)のうち192社が、直近1年間の事業所移転や新増設動向を国内で実施した。また、今後の事業所移転や新増設の計画では354社が国内での事業所新増設を挙げている。海外生産拠点を持つ事業者も、国内の生産機能について「維持」「拡大」と答えた事業者が約9割を占めている。

一方で受け皿となる工場立地については、用地や人手の不足もあり、なかなか需要に応えられないのが実情だ。国も手続きのスピードアップや開発許可の柔軟化などで土地利用転換の迅速化に取り組んでおり、自治体による工場立地を支援していく構えだ。

茨城県/補助金拡充 優遇に脚光

茨城県は首都圏各地域へのアクセスの良さに加え、独自の補助金による優遇制度で企業の注目を集める。2023年も、約20年ぶりとなる県施行の産業用地が完売するなど動きは活発。大井川和彦知事は「立地の魅力が見えた結果だ」と強調する。

県内の各高速道路周辺に産業用地を持つ。沿岸には大型の港湾設備もあり、遠隔地からの物資輸送も容易にする。県南部を横断する首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の茨城県部分は、26年度までの4車線化が完成する予定で、さらなる輸送力増強も見込める。

成長産業に対する補助金も欠かさない。半導体や次世代自動車関連の本社機能移転などに対し、建物の建設費などを補助する。原子力発電施設がある地域への企業立地では、電気料金の4割程度を最大8年間補助する。

小型人工衛星用推進機を開発する東京大発スタートアップPale Blue(千葉県柏市、浅川純社長)が補助金を活用したつくば市内への生産技術開発拠点を決めたほか、日立建機が補助金の適用を受け、土浦工場(土浦市)に研究開発拠点を新設した。現在もひたちなか市や坂東市で工場団地を整備中。雇用創出や地域経済の活性化にもつなげる。

栃木県/成長産業集積 取り組み加速

栃木県が首都圏企業の誘致へ7月に東京都内で開催した魅力発信セミナー。福田富一知事は栃木県の魅力として「アクセス性」「災害リスクの低さ」「安価で多様な産業団地」「優遇制度」を挙げた。優遇制度は2024年度に半導体や蓄電池など「特定重要物資」関連で強化し、成長産業集積の取り組みを加速している。

首都圏企業の誘致へ東京都内で魅力発信セミナーを開催

目玉施策の一つが立地企業の投下資産に対する助成制度の改定。不動産取得税課税標準額の3%としていた補助率を、特定重要物資関連は5%に引き上げた。半導体、蓄電池関連は補助上限額を30億円から70億円に増額。「全国トップクラスの限度額」(福田知事)で中核企業を招く。

補助金制度で既存立地企業の対応も促す。7月に特定重要物資関連のサプライチェーン強靱(きょうじん)化補助金と技術強化補助金の交付先を計7社決定した。各社が生産性向上や製品開発を進める。

一方、企業立地の受け皿となる産業団地は不足しているのが課題だ。県は21―25年度に累計200ヘクタール整備する目標だ。「みぶ中泉産業団地」の造成が進む壬生町の小菅一弥町長は「県内各地で産業団地開発が進んでいる。企業が自社の繁栄に適した立地場所を検討できる」と期待を寄せる。

北海道/次世代半導体・DCけん引

北海道では23年2月に次世代半導体の開発と製造を行うラピダス(東京都千代田区)が千歳市への進出を決め、24年5月には経産省と総務省による「データセンター中核拠点」に北海道と九州を位置付けた。ここから潮目が変わったとみる向きが多い。

工場立地の動向は「(北海道への進出企業数は)急に増えたわけではなく、コロナ禍前に戻りつつあるといった印象」(北海道産業振興課)だが、再生可能エネルギーのポテンシャルの高さ、冷涼な気候条件、グリーン・トランス・フォーメーション(GX)への金融資産運用特区対象地域となるなど、すべてが連動して企業誘致は進む。

ソフトバンクなどによるデータセンター(DC)の完成予想図

ソフトバンクなどが北海道苫小牧市にデータセンター(DC)立地を決めたのは23年11月。将来的には敷地面積70万平方メートル、受電容量は300メガワット超と国内最大級の規模に拡大する計画。ラピダスが立地する千歳市が隣接し、連携も視野に入れやすい。

北海道と言えば元々は豊富な食資源を活用した食品工業の立地が多いが、ここにきてDCや半導体関連などが目立ってきた。こうした流れが進めば北海道の産業構造を変え得る可能性がある。


【関連記事】 世界の半導体工場で、揺るぎない信頼を集めるクリーン搬送装置
日刊工業新聞 2024年08月12日の記事から抜粋

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