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ゴミ収集車・救急車…トヨタ子会社が水素車両相次ぎ実装、九州で持続可能性探る

ゴミ収集車・救急車…トヨタ子会社が水素車両相次ぎ実装、九州で持続可能性探る

FC救急車について説明する中嶋CJPT社長㊨。走行時の駆動音が少ないため患者との会話もしやすい

トヨタ自動車の子会社で、いすゞ自動車などと共同出資する商用車企画会社のコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT、東京都文京区、中嶋裕樹社長〈トヨタ自動車副社長〉)が、九州で水素を軸とした街づくりを進めている。この1年、水素で走行するゴミ収集車や救急車を相次ぎ投入。事業の持続可能性を探る。水素の普及にはコスト低減と需要拡大の好循環が不可欠。官民一体で水素が日々の生活を支えるモデルづくりに挑む。(名古屋・川口拓洋)

「今の子どもたちが大人になったとき、エネルギーは水素が当たり前になる世界をつくりたい」。こう意気込むのはCJPTの中嶋社長だ。同社は九州地方や福島県など国内の複数地域で、燃料電池(FC)など水素エネルギーの利活用を進めている。

福岡市はCJPTと連携し、2023年夏ごろから燃料電池車(FCV)の給食配送車を導入。福岡県は同年秋にFCマイクロバスを活用したバス高速輸送システム(BRT)の運行を開始した。24年には福岡市でFC給食配送車が2台追加導入され、FCゴミ収集車、FC救急車も稼働した。

6月末までに給食配送車は約20万人分の給食を運搬。BRTは2052人の移動を支え、ゴミ収集車は約450トンを回収した。中嶋社長は「志を共にする会社や行政と進める。データ収集もできている」と、生活の中で水素が活躍することに手応えを感じている。

これまで水素の普及を妨げた要因の一つが需要と供給のバランスだ。需要が少ないと水素ステーションが稼働できず水素の価格自体も高止まりし、脱炭素が進まない。CJPTではこの流れを変え「“花とミツバチ”の関係にする」(中嶋社長)という。それが生活に根差した「働く車」を水素車両に転換することだ。働く車は日々走行するため、水素需要の創出と水素ステーションの安定稼働につながる。

水素が社会に根付くには一定の量が必要になる。量の確保に向けて重視するのがトヨタ生産方式(TPS)における「原単位」という考え方。「ムリ・ムラ・ムダ」をそぎ落とすことでリードタイムの短縮とコストの低減を図る。

他地域に事業を横展開する際に「原単位」の考え方は有効だ。CJPTでは人口30万人都市が「原単位」に適していると判断。都市の大きさに合わせて、この原単位を「n倍」する。例えば人口30万人の都市で救急車12台、給食配送車30台、ゴミ収集車300台、バス30台を全てFCVにすると、1日に必要な水素量は約2000キログラムになる。これは水素ステーション8基が安定稼働できる量に相当する。

また車両を提供するCJPT側でも一定量が必要で、年間1万台のFC商用車の提供を目指す。「1万台あればディーゼル車と大きな価格差がなくリースとして使える」(中嶋社長)とみる。九州の取り組みは原単位を念頭に置きつつ、安定的な水素利活用のモデルをつくる取り組みの一環でもある。

九州では数台程度の水素車両の活用が始まったばかりで、道のりは長い。

ただ、水素活用が「実証」から「実装」に移行した意味は大きい。来たるべき水素社会の実現に向けて、確かな歩みを続けていく。

日刊工業新聞 2024年08月06日

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