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円高・株安はどこまで進むのか

日本経済の成長性に疑問
 菅義偉官房長官は7日午前の会見で、ドル安・円高進行について「偏った動きが見られている」と指摘。「場合によっては必要な措置をとりたい」と発言した。日銀が14年10月31日に打ち出した「ハロウィーン緩和」前の水準になっている。

 背景にあるのは原油安と米金融政策の不透明感。比重が増しているのが後者だ。米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げに対するハードルは新興国経済の減速もあり、米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文を読む限り、高い。

 1日に発表した日銀短観では、大企業製造業平均の16年度の為替設定は1ドル=117円46銭。事業計画の前提になる想定レートから現在の為替相場が9円程度も円高ドル安に振れている。「為替介入したところで世界的なドル安の流れには短期的には逆らえない可能性もある」(メガバンク関係者)との見方もある。企業業績の下押し圧力になるのは避けられない情勢だ。

ニッポン“一人負け”


 また、株価はさえない展開が続いている。日本株は、年初からの推移を見ても、上昇の米国株はもとより、欧州株や中国株以上の下落で”一人負け“状態となっている。日経平均株価の構成銘柄に代表される巨大企業は大半が輸出に頼っており、円高は収益減少に直結する。投資家が売りを加速し、さえない相場展開を決定づけた。

 円にマネーが流入する一方、日本株が上昇しないのは、海外投資家が日本経済の成長に疑問を持っている現れだ。12年末のアベノミクススタート後、株価は2倍以上に伸び、15年夏に2万円を超えた。日銀の量的緩和による円安誘導と、円安による企業業績向上を期待・評価したためだ。しかし、日本経済のさらなる成長は見えにくい状況。投資家の期待感後退が株価下落につながっている。

株価、大きく下げ続けることはない!?


 ただ、今後の株価については、「現在の日本企業の株価純資産倍率(PBR)1倍は、日経平均株価で1万5000円。このラインを一時的に割り込んでも、大きく下げ続けることはないだろう」(太田千尋SMBC日興証券投資情報部部長)との見方が出ている。

 市場で期待されているのは、日銀のさらなる金融緩和と政府による財政政策だ。政府は16年度予算の前倒し執行を閣議決定しており、10兆円規模と言われる補正予算の検討に入っている。さらに17年4月の消費増税の延期・凍結が決まれば、株価上昇にも一定の効果が期待できるだろう。

 株式市場で投資家は基本的に中長期的な国や企業の成長に期待して投資する。株価を長期的に上昇させていくには、日本経済や日本企業の成長が必要だ。

《私はこう見る》


みずほ証券投資情報部チーフFXストラテジスト・鈴木健吾氏
「105円台に進む可能性も」

 追加利上げの先送りを示唆するFRBのイエレン議長のハト派発言や、原油価格の下落、各国株式市場の軟調が組み合わさり、ドル安・円高状況となっている。2月に1ドル=115円から110円前半に急騰した際は、トレンドに乗った投機筋の動きが流れを加速した。今回も1ドル=105円まで急に円高が進む可能性はある。

 ただ、米国が利上げし日本が緩和する両国の金融政策を見ればドル高円安が自然な流れ。投機筋の動きが一巡すれば、再び1ドル=115円まで戻ることは十分あり得る。

 伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)の議長国という立場もあり、自国のためだけに為替介入することは難しい。しばらくは口先介入か日銀の緩和に頼るしかない。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
欧米がマイナス金利政策を導入するなど金融政策に手詰まり感がうかがえる中、先の20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)では先進国が財政出動を伴う内需刺激策を講じることに期待感が示された。行き過ぎた円高是正に向け、5月末の伊勢志摩サミットで参加各国が内需拡大でどこまで国際協調できるかが焦点か。最後は米国の景気と大統領選の行方。

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