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条件折り合えず平行線、政府と学術会議「あり方問題」対立の行方

条件折り合えず平行線、政府と学術会議「あり方問題」対立の行方

記者会見に臨む光石日本学術会議会長(7月29日)

「監事受け入れ」か「財源保障」選択 今月下旬まで休会、概算要求へ

政府と日本学術会議の対立が平行線をたどっている。内閣府で学術会議のあり方を検討する有識者懇談会の下で二つの作業部会が検討を重ねてきたが、折り合える条件が見いだせていない。学術会議は大臣任命の監事を受け入れるか、公益財団法人などとなって現行法にある国からの財源保障を諦めるかの選択を求められている。内閣府と学術会議で折り合うとしても、その選択が社会にとってどんな意味があるのか説明が必要になる。(小寺貴之)

「重大な決議をせねばならないと用意していた」―。7月末、有識者懇談会に臨んだ光石衛学術会議会長は振り返る。臨時総会で声明を決議するなど、会議で強引な決定がなされれば複数の対応を準備していた。結果として重大な決議には至らなかった。懇談会座長の岸輝雄東京大学名誉教授は「議論が振り出しに戻ってしまう。同じことばかり話している」と苦言をこぼす。

この作業部会は4月に始まり、3カ月間で両会を併せて12回と政府の会議体としては高頻度に開かれてきた。建前は日本のナショナルアカデミーの機能強化のための議論をしているはずだが、学術会議へのガバナンス(統治)の議論に終始してきた。米英仏独のアカデミーへ、政府からの独立性や自律性を保つための仕組みを書面でたずねたが、「当会は政府や政策立案者と強い関係を築いており、彼らは科学的な問題に関する専門的な助言を求めて定期的に当会にアプローチしている」(英国王立協会)などとピントのずれた回答が返ってきた。作業部会主査の相原道子横浜市立大学名誉教授は「聞かれても回答できないのだろう」と説明する。政府と学術会議が対立している現状などの背景説明が足りなかった面もある。

7月29日に開かれた有識者懇談会の終了後、記者の質問に応じる岸座長

それでも海外アカデミーからの回答には内閣府が推す投票制や多様な財源確保について触れられており、学術会議にそれを求める根拠になった。内閣府は「十分、回答いただいた。後は我々が考えるということ」と直接的なヒアリングはしない方針だ。アカデミーの体制強化や運営効率化などは質問にも盛り込まれなかった。全米科学アカデミーからは返事さえなかった。

そしてガバナンスの条件は2023年12月の政府方針が堅持されている。学術会議は「政府がアカデミーの計画や評価に関与するのは中国とロシアのみ」と反発するが、内閣府は大臣任命の監事を設置する条件を譲らない。監事は会計だけでなく、業務の執行状況も監査する。国立大学の法人化などを例に挙げ、「運営費交付金を出すなら大臣任命の監事が必要。これを崩すと、それならばうちもと法制度が成り立たなくなる」と説明する。

同時に学術会議が公益財団法人などとなり独立すれば補助金として資金を提供でき、監事は不要と説明する。ただし「経費は国庫負担」という現行法の財源保障を新法人の法律には書けなくなるという。財源保障がなくなれば漸減していくと見込まれる。監事か予算か選択を求めている。

これは学術会議にとって受け入れがたい。仮に執行部の判断や総会での多数決で要求を吞むと、学術会議内部に致命的な亀裂が入りかねない。この議論は8月下旬まで休会し、25年度予算の概算要求に突入する。

内閣府と学術会議がどこで折り合えるのか見通せない。ただ、どこで折り合うとしても社会に対して説明がされるのかは不透明だ。ナショナルアカデミーとしての機能強化や計画、予算の妥当性については、まだ十分に検討できていない。それでも内閣府は現行法の「科学者の総意の下に設立される」という前文は「国民の総意の下」と修正する方針だ。

国民の総意の下に設置される新生学術会議は、国民の代表である政府が監督するのは当然という論理が働いている。これに学術会議は反発するが有識者懇談会では「国民の総意は嫌で科学者の総意の下にとどまりたいのか」と批判されている。国民の総意が改革を断らせないための方便に使われている。この国民の総意は「国会で了承されて認められる」(内閣府)予定だ。

学術会議は公開の場での議論を求めてきた。内閣府の有識者懇談会は非公開。こうした改革手法を容認すると、今後の大学などのガバナンス改革にも影響が出かねない。学術に携わる人間にとっては人ごとにできない状況になっている。

日刊工業新聞 2024年08月01日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
例えば組織制度WGでは学術会議の機能や組織を明確にするためにミッションの再定義、会員選考WGでは会員に相応しいVery Bestな人たちを選ぶための基準の言語化に取り組んできました。具体を検討する前の目線合わせで時間を費やしています。それさえ反対があり、有識者からは時計の針を戻すつもりかと苦言が出ています。会員はとりあえず500人、連携会員の2000人は多過ぎるという有識者の意見には、学術会議から感覚でものを言わないで欲しいと苦言が出ています。連携会員をなくす案に対して、現在の1870人は分科会の活動に必要で積み上がっている数字なので、有識者の感覚で廃止されるのは困ると、学術会議が反対姿勢を明確にしました。ならば、と連携会員に代わる仕組みを考えることになっていますが、代わる仕組みを用意してでも現在の連携会員を廃止したいのかと勘ぐられています。連携会員はボランタリーでも貢献してくれる先生を探す仕組みとしても機能していました。いろいろ煙たいと思われる先生がいるのだと思います。大臣任命の監事について、学術会議は大臣任命ではなく自分で任命したいと主張して、自ら選んでお手盛り監査と批判されないとでも思っているのかと批判されています。内閣府からは国立大学の監事はそんなに厳しくない、サポーターのようなものとも説明されています。どちらにも疑問符が付けられています。大臣任命でも学術会議任命でもない方法はあるはずです。学術会議は新しい期が23年10月に始まってようやくアクションプランが出てきました。ただ進んだ部分や、やることが決まった部分を紹介するだけで、アクションプラン本体はいまだに公表されません。7行の骨子があるのみ。プランのどこが進んでいて、どこが遅れているのか判断できません。監事を置いたらどうなるのか。置かないとこうなるのか。事務局には内閣府から職員さん50人が来ていて、小規模大学よりは充実した体制があるはずです。議論が空転したまま法人化で形だけ変えても中身が伴いません。一度、ガバナンスは脇に置いて実務体制や機能を精査して、実績と強化に必要な数字を積み上げないと、身にならないように思います。人を内側に送って進める改革でも、改革を求める方々の意向は叶えられるし、現在の議論が現会員を刷新するための議論、ガバナンス強化のための議論と批判されることもなくなるのではないかと思います。

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