裁判官・弁護士を経て教員になった“正統派”明治大学新学長の思い
明治大学は明治期に設立された法律学校が発祥で、上野正雄学長は卒業後に裁判官、弁護士を経て教員となった“正統派”だ。学生約3万5000人の規模でも面倒見のよさで知られる。「学生には本学が提供するものを使い倒してほしい」という思いを聞いた。
―高校と違う学びとして低学年の少人数教育を、全10学部で実施するのは意外です。
「総合性と多様性を持つ中で『就職の明治』と呼ばれるように各種の支援を充実させている。キャンパスが4カ所で、学部や学年で分かれているのがやや弱点だ。今後は部局間の垣根を下げて、総合大学ならではの学びを深める仕組みを具体化したい」
―人気のNHK連続テレビ小説『虎に翼』で、主人公のモデルは明治大の出身者です。
「本学は1929年に専門部の中に女子部を設置し、その卒業生が学部へ入学する道を整えた。これによって、モデルとなった三淵嘉子ら3人の日本初の女性弁護士が誕生した」
「本学の『国家試験指導センター』は就職・キャリア支援の一環として、各種国家試験を目指す学生を指導している。法制研究所もその一つで、卒業生が講義をしたり、就職の面倒を見てくれたりする。入学時は必ずしも本学が第1希望でなかった学生も、卒業時には『明治が大好きだ』と、口にして巣立っていってくれる」
―「データサイエンスAI(人工知能)概論」受講は、23年度に1300人超の規模になりました。
「22年度からの開始で文理問わず、学部・学科ごとに到達目標や科目群を設定。学ぶ意義が学生に理解されている。総合数理学部と理工学部では一段上のレベルのプログラムを展開し、文部科学省の認定も取得している」
―笑わせて考えさせる研究を対象としたイグ・ノーベル賞の受賞論文が、実用化につながりました。
「総合数理学部の宮下芳明教授らの味覚メディア技術だ。キリンホールディングス(HD)との共同研究で、減塩食でも塩味が1・5倍程度に増強される電気刺激波形を明らかにし、この技術を使ったデバイス『エレキソルト』が同社から発売された。教員一人ひとりがユニークな教育・研究を展開できるよう十分に、支援していきたい」
【略歴】うえの・まさお 80年(昭55)明治大法卒。92年最高裁判所司法研修所司法修習生。94年裁判所裁判官。03年明治大法専任助教授。04年東京弁護士会弁護士。10年明治大法専任教授。茨城県出身、66歳。
【記者の目/時代に合わせ変化恐れず】
消えた法律学校も多い中、「建学の精神『権利自由、独立自治』で時代に合わせて変わってきた」と振り返る上野学長。「学内構成員の意見を聞きながら議論をするも、変わることを恐れずにいく」と姿勢を正している。(編集委員・山本佳世子)