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開発途上国への農業支援、日本の食料安全保障につながる

共創 科学技術外交(下)

開発途上国への農業支援が日本の食料安全保障につながる時代になった。病害虫の侵入やまん延を防ぐ植物防疫では温暖化に伴い病害虫の分布が北上している。途上国は国が担うべき機能が脆弱な面もある。だが業務をデジタル変革(DX)すれば遠隔支援が可能だ。日本にとって病害虫の早期検知とデータの確保につながる。公共機関の協働が加速する。

「DXで日本の農業を支えてきたインフラを輸出できるようになる」と農業・食品産業技術総合研究機構の久間和生理事長は目を細める。イネウンカを自動識別する人工知能(AI)技術を開発し、2024年度から国の発生予察事業で使われることになった。同事業では稲から虫をたたき落として粘着板についた虫を人が数える。全国約3000地点で月2回以上の定期調査が実施されている。

AIはイネウンカの種類や雌雄、幼虫、成虫などを分類しカウントする。画像化に2―3分、認識と計数は1分以内だ。専門家が数えても1時間以上かかる場合もあった。精度は90%以上。精度を全国で均一化し、負担を大幅に軽減できる。国の事業として運営するために専門家が学習データを作り、AIをメンテナンスして信頼性を担保する。

こうした事業モデルは海外に展開できる。専門家育成とAIインフラを併せて途上国に提供すれば新たな病害虫の発生や北上を検知できる可能性がある。このデータは防除法や農薬などの開発に欠かせない。そして食品商社や保険の基礎データにもなりえる。久間理事長は「遠隔営農支援システムで海外展開しやすくなった。食料安全保障につなげたい」と展望する。防疫に限らず、専門家が汗水流している仕事にはDXと海外展開のチャンスが眠っている。

インタビュー/途上国で実装、国内に知見環流・外務大臣科学技術顧問・松本洋一郎氏

外務省の松本洋一郎外務大臣科学技術顧問に、これからの科学技術外交を聞いた。

外務大臣科学技術顧問・松本洋一郎氏

―政府開発援助(ODA)で新技術の社会実装を進める意義は。
 「日本で成功した技術やシステムであっても海外に展開できるとは限らない。普及を目指すなら現地化が必要だ。同様にODAも既成のインフラや技術を授けるモデルは時代遅れになった。途上国と一緒になって作り上げる共創が必要だ。そして地球規模課題を解決するには途上国の問題を解かねばならない。脱炭素や食料安全保障などは、世界で機能する施策を考えなければ解決できない」

―デジタル後進国の日本では技術はあっても活用が進みません。
 「途上国はしがらみがない分、一足飛びに新しい社会モデルに挑戦できる。支援を通して壮大な社会実験をさせてもらうことになる。途上国で社会実装する知見を国内に環流させ、次のイノベーションを狙う仕組みを作ることが重要だ」

―研究者や企業に主導できますか。
 「在外公館が旗を振るべきだ。日本に来ている駐日大使はみな自国のセールスマンとして走り回っている。大使の権限は大きく、情報も集まる。インドなどの在外公館へは科学技術フェローが設置された。体制と機能は強化されている」(小寺貴之が担当しました)

日刊工業新聞 2024年07月11日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
国内の業務負荷を削減して海外に持っていける形に直してしまう。DXのあるべき形だと思います。これなら人の足りない途上国にも展開できて投資金額以上の効果が出せるかもしれません。とはいえ、自分はウンカを人が数えてるんだと驚きました。こうしたやっている人しか知らない仕事を発掘するのが最初の関門だと思います。業務効率化のための予算は付けにくかったですが、DXと海外支援を組み合わせた予算なら認められそうな気がします。民間には担えない事業を応援する仕組みになればと思います。

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