科学技術外交でスタートアップの重要性が増している理由
科学技術外交を担う主体としてスタートアップの重要性が増している。社会課題の解決策を編み出しても、それがビジネスとして成立しないと持続可能にならないためだ。公的機関が脆弱(ぜいじゃく)な途上国では民間の力が要る。ただスタートアップにとっては産業基盤が未成熟な途上国で事業を立ち上げるのはリスクでもある。
「国内市場は人口減少に伴って縮小する。成長市場で勝負するスタートアップは海外市場を見据える必要がある」と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の横島直彦副理事長は指摘する。NEDOは7月の機構改革で海外展開支援機能を強化した。国際部を海外展開部に改め、プロジェクトの公募、採択から実施まで一貫して担う専門組織とした。一貫支援体制を敷くことで相手国政府や連携機関との人脈は太くできる。横島副理事長は「海外事業は国内よりも人と人のつながりが重要になる」と説明する。
機構改革は先進国を含め、脱炭素などの開発技術を海外展開することが目的だ。ただ政府開発援助(ODA)の支援対象国はインドやタイ、ベトナムなどの成長市場も含まれる。地球規模課題の解決と経済成長は両立し得る。企業にとってODA事業やNEDO事業の支援機能が強化され、より早期の研究開発段階から取り組めるようになる。
挑戦しているスタートアップはある。東京工業大学発スタートアップのつばめBHB(横浜市港北区)は国際協力機構(JICA)の支援を受け、ラオスの余剰水力発電を利用したアンモニア生産を目指している。ラオスは東南アジアのバッテリーと呼ばれ、メコン川を中心に開発可能包蔵水力は約2600万キロワット、発電量の3分の2を輸出している。ラオスは農業国だが化学肥料を輸入に依存する。余剰電力でアンモニアを生産できれば、肥料の安定調達や食料安全保障につながる。
同社の中村公治社長は前々職の商社時代にタイでラオスの電力が余る事情を見聞きしていた。ベンチャーキャピタル(VC)を経て同社に移り、ラオスの余剰電力と同社のアンモニア合成技術が脱炭素で結び付いた。余剰水力をアンモニアに変えれば化学品原料や燃料になり、カーボンクレジットでさらに価値が増すと見込まれる。
当初はJICA事業に落選した。中村社長は「試験プラントが建ち、技術が認められプロジェクトが動き出した」と振り返る。現在は事業化調査(FS)の段階だ。収益性や科学的根拠を持ってラオスを巡る。既存の事業の高度化でなく、ゼロから事業を立ち上げる難しさがある。
中村社長は「VCでの経営支援や、商社での材料開発と事業開発の経験が推進力となっている」と振り返る。こうした途上国の課題と技術開発、事業化の三つに通じた人材を計画的に育成するのは難しい。知れば知るほど、その困難さから諦めてしまう面もある。事業化以前に人がボトルネックになる可能性がある。