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大学院生「統計エキスパート」に育てる…統計数理研、データ活用高度化

大学院生「統計エキスパート」に育てる…統計数理研、データ活用高度化

通常は各機関からウェブ参加だが、中間報告会では全国から研修生が集まる(統計数理研提供)

統計数理研究所は各分野の助教クラスの研究者を「大学統計教員」に育成する「統計エキスパート人材育成プロジェクト」で、自己財源による4期目の実施を決めた。データサイエンス(DS)教育のニーズが急上昇し、日本統計学会や日本学術会議が同事業の継続・拡大を要望する中で、後継事業を待たずに進む必要があると判断した。2025年4月にスタートする。また23年秋に1期生12人が修了したことから、24年度は修了者が各所属大学で、大学院生を「統計エキスパート」に育てる教育が本格化する見込みだ。

統計エキスパート人材育成プロジェクトは、文部科学省の21―25年度事業で統計数理研を中核機関に理、工、医、薬などの博士号を持つ若手研究者に、高度な統計学を広く学んでもらい「各専門分野×統計学」の指導者を育成するものだ。滋賀大学や東京理科大学、東京医科歯科大学、長崎大学など全国からウェブで参加。英語教科書を使った模擬講義や、マンツーマンに近い分野別演習を行う。研修期間は2年間。

参画機関は当初の21から29に拡大。研修生は計30人を計画していたが、すでに第3期までで39人だ。研修前から助教など各所属機関で学部・修士学生向けDS基礎の授業など担うケースがあり、1期生の6人は研修前も27講義を担当していた。研修中は11人54講義と倍になり、修了後にさらに多くの講義を担う。受講した高度な研修内容を生かし、修士学生を統計エキスパートに鍛える教育も注目だ。

参画機関の声は「データ分析はできても背景が説明できないなど、統計教育の不足を共通認識とすることができた」「計画する大学院DS研究科での講義、研究指導を修了者に担当させる」「研修で作成した教材の活用などで、高い授業評価が得られている」など。また研修後、助教から講師になるなど4人が昇格・移籍でキャリアアップを果たした。

統計数理研の千野雅人特任教授は「研究活動でもよい影響が出ている」と説明する。「新たな統計的手法の応用で従来と違う成果を出した」「経済学と情報学の受講生同士が共同研究して論文発表した」「受講生・メンター教員3人で、健康科学の統計解析の専門書を翻訳・刊行した」など事例が出ているという。

日本のDS学部・学科は17年度に始まり、21年度からの設立ラッシュで現在、23大学ほどにある。DSは「統計学」「情報学(計算機科学)」「応用の専門領域」の3学問分野の能力が必要とされる。特に統計学の教員不足が大きな問題だ。

日本統計学会は6月、盛山正仁文科相に「同事業を継続し、統計教員を年40人育成できるよう強化を」と要望書を手交。日本学術会議も数理科学委員会がまとめたDSの統計教育に対する見解で、同事業を大幅拡大すべきだと記している。

日刊工業新聞 2024年07月18日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
すでに博士号を持ち、若手研究者として忙しい各分野の専門家が、この活動で2年間の研修を受けるというのは、どれほど大変なことかと思いました。参加前から学部生のDSの授業を持ち、参加中にその数が増え、修了後は修士レベルのDSエキスパート人材育成も手がけるというのですから。ですが、挑戦する価値ある活動に違いありません。統数研では修了した一期生12人全員を、統数研の客員教員にしたそうです。これも後に続く受講者のやる気を、大きく刺激することでしょう。

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