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100年後、競技存続の危機!?…いよいよパリ五輪、スポーツ界が温暖化に警鐘

パリ五輪が26日、開幕する。2021年の東京大会に続いて猛暑での競技が予想される。気候変動が猛暑を助長しており、選手や元選手が酷暑での競技の危険性を訴え始めた。五輪に限らず、スポーツを支援する企業が少なくない。脱炭素を進める産業界と国民への影響力があるスポーツ界の連携による気候変動対策の進展が期待される。(編集委員・松木喬)

「暑いはずなのに寒気を感じた」。競歩の鈴木雄介選手は、19年開催の世界陸上大会を振り返る。開催地のカタール・ドーハは、9月末でも日中は40度Cを超えていた。レースは深夜にスタートしたが、「日本よりも暑かった」(鈴木選手)。「寒気」は熱中症の症状だ。鈴木選手はレース中に発症したまま1位でゴールしたが、後遺症が残って東京五輪に出場できなかった。

鈴木選手は悔しい体験談を、報告書『火の五輪』の報道機関向け説明会で語った。この報告書は「持続可能なスポーツのための英国協会」などが、猛暑での競技見直しを提案する目的でまとめた。鈴木選手以外にも、多くの選手が暑さによる危険を覚えた体験を報告書で告白している。

猛暑の影響を受けるのは、五輪だけではない。説明会に参加した早稲田大学スポーツ科学学術院の細川由梨准教授は「100年後、今と同じスポーツはないかもしれない。数年後、一般の人のレクリエーションの機会が奪われる」と危機感をにじませた。

元ラグビー選手の五郎丸歩さんも「子どもたちのスポーツクラブには潤沢な資金がない。プロは熱中症対策ができるが、子どもの環境整備が課題」と訴えた。元陸上選手の為末大さんも、学生の大会が夏休みに集中している現状に触れ、「選手たちは時期をずらせるとは思っていない」と選手の声を代弁した。

スポーツ選手は国民に感動や勇気を与える影響力がある。その選手たちがメッセージを発信することで、国民の気候変動問題への意識も高まりそうだ。

インタビュー/「運用変更」広がり期待 環境大臣政務官・朝日健太郎氏

スポーツ界と気候変動問題について、朝日健太郎環境大臣政務官に聞いた。朝日氏はバレーボール選手からビーチバレーに転向し、08年の北京五輪、12年のロンドン五輪に2大会連続で出場。23年から現職。

―五輪やプロ以外のスポーツも熱中症対策が重要です。
 「何か起きてからルールを変えては遅い。8月の全国高校野球大会は午前と夕方に試合をする2部制を一部で導入する。大きな大会が運用を変えたことで、他の競技にも広がってほしい。ある少年野球大会も、気温と湿度などから算出する『暑さ指数』が基準を超えたら、試合を打ち切ることを決めた」

―選手も気候変動による猛暑の危険性を語り始めました。
 「アスリートからの意見を新鮮に感じる。スポーツは大勢の人が支えている。選手は自分を特別とは思っていないので、声を上げにくい。それに、いろんな条件を受け入れることが是とされてきた。しかし今、想定を超えて気候が変わってきた。変化をどこまで受け入れるのか、問われているのだろう」

―スポーツを支援する企業も多いです。
 「どういうパートナーと競技を続けるのかも、問われそうだ。再生可能エネルギーで大会を運営するのなら、再生エネ企業がスポンサーになるかもしれない。脱炭素を進めたい企業の方針と、スポーツの現場の思いが合致すれば、社会を変える起爆剤になるかもしれない」

―競技団体への要望は。
 「できることから始めてほしい。大会では運営スタッフに提供する食事が余りやすい。そこで5月に北九州市で開かれたバレーボール大会では、地域の飲食店で利用できる券をスタッフに配布した。食品ロスを減らせ、地元経済に貢献できた」

―元五輪選手としてパリ五輪の注目は。
 「団体競技だ。バレー、バスケットボールは男女とも出場権を獲得した。最近、日本の団体競技は出場できていなかった。私はチームスポーツ出身なので、団体競技に感情移入しやすい」

日刊工業新聞 2024年07月19日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
朝日政務官はバレーからビーチバレーに転向し、屋外競技になって自然と向き合い、人生観が変わったそうです。「火の五輪」は、開催時期の変更などを提案しています。また、報告会ではマラソンは冬季競技にという話も出ていました。どの分野でも、従来通りが通用しなくなっています。

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