「顧客ごとにナノインプリントに対する興味のポイントが違う」(キヤノン執行役員)

武石洋明氏に聞く。まずはコスト削減という点で貢献

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武石氏
 キヤノンの半導体露光装置事業が転機を迎えた。先端のフッ化アルゴン(ArF)液浸装置の開発につまずき苦戦してきたが、ここに来て同社が得意とするi線(波長365ナノメートル〈ナノは10億分の1〉)、フッ化クリプトン(KrF)の両装置の需要が伸びている。また「ナノインプリント露光」技術を使った次世代装置の事業化が視野に入った。事業拡大に向け、どう成長戦略を描くのか。同社の武石洋明執行役員半導体機器事業部長に聞いた。

 ―i線、KrFの両装置の2015年の販売台数は前年比約50%増の80台。好調の要因は。
 「i線装置では高い業界シェア(70%程度)を有している。そうした中、好調な市況の追い風に乗れた。KrF装置についてはライバルに後れをとっていたが、12年に伍(ご)して戦える新機種を投入し、その成果が15年に表れてきた」

 ―16年の見通しは。
 「メモリー業界に元気がなく、9月ぐらいまでは不透明感がある。ただ、その後は需要が戻るのではないか」

 ―中長期的には、モノのインターネット(IoT)の普及が追い風になります。
 「半導体を搭載する製品の種類が増え、露光装置のニーズも多様化してきた。必ずしも先端のArF液浸装置を必要としないケースが増え、i線装置、KrF装置の需要が伸びている。例えば画像センサー向けの販売は非常に好調だ」

 ―今後も市場成長が期待できそうですね。
 「i線とKrFの両装置の市場が倍増することはないだろうが、堅調とみている。特にKrFの需要は伸びそうだ」

 ―キヤノンのKrF装置のシェアは20%超にとどまっています。拡販に向けた取り組みは。
 「顧客の生産性向上ニーズに応えていくことが重要。既存モデルをアップデートする形で、性能を高めた製品を毎年投入していく」

 ―次世代のナノインプリント露光装置を巡っては、東芝が3D(3次元)メモリーのコスト低減を狙いに量産ラインで採用することを決めました。
 「顧客のことは申し上げられないが、いろいろな半導体メーカーに興味を持ってもらっていることは事実だ。顧客ごとにナノインプリントに対する興味のポイントが異なっており、複数の用途で使える幅広い可能性を感じている」

 ―微細化を目的としたナノインプリントの可能性については、どう見ていますか。
 「先端のArF液浸では複数回に分けて露光し微細化を進めており、コスト高が課題の一つだ。これに対しナノインプリントを使えば、ある程度の線幅まで一発で回路を描けるようになる。まずはコスト削減という点で貢献したい」

 ―露光装置事業が、いよいよ攻めに転じる時ですね。
 「最悪期と比べれば、“良い線”まで来たと思う。しかし露光装置のような生産財は、威勢よいことを言った途端にうまくいかなくなる。地道に顧客ニーズにマッチした製品を提供し、信頼を勝ち取り販売を伸ばしていく」

【記者の目・蘭ASMLの厚い壁に挑む】
 キヤノンは半導体露光装置の主力拠点である宇都宮事業所(宇都宮市)での生産増強も決めた。取材では、いけいけどんどんな発言も期待したが、武石執行役員に浮かれた様子は見られなかった。背景にあるのは、露光装置業界で圧倒的トップに立つ蘭ASMLの存在。その分厚い壁にキヤノンが風穴を開けるには、ナノインプリント装置での成功が不可欠になる。
(聞き手=後藤信之)

日刊工業新聞2016年4月7日 電機・電子部品面

COMMENT

後藤信之
編集局ニュースセンター
副部長

キヤノンの半導体露光装置事業の成長は、KrF装置のシェア拡大とナノインプリント装置の事業化にかかっている。KrFはASMLに負けない性能の装置を提供し続けることに加え、保守・メンテナンスで高いサービスを提供することが重要になる。もう一方のナノインプリントは実用化のめどが付いたものの、当面は露光工程の一部での採用に留まる見通し。メーンストリームに躍り出るには、さらなる技術革新が必要だ。〝頂上〟までの道のりは決して低くないが、その特許の多くは東芝、キヤノン、キヤノンが買収した米モレキュラーインプリントが抑えている。〝登頂〟できればキヤノン全体の成長、そして日本の半導体露光装置産業の成長を牽引する存在になる。

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