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三菱重工が初の事業持ち株会社でフォークリフトは成長するか

世界首位・豊田自動織機の背中はまだ遠し
三菱重工が初の事業持ち株会社でフォークリフトは成長するか

左から二ノ宮秀明ニチユ三菱フォークリフト社長、前川篤MFET社長、志岐彰ユニキャリアホールディングス社長

 三菱重工業はフォークリフト、ディーゼル・ガスエンジン、自動車向けターボチャージャー(過給器)の3事業を傘下に置く統括会社「三菱重工フォークリフト&エンジン・ターボホールディングス(MFET)」を発足した。売り上げ規模7300億円を誇る巨大子会社が誕生、事業環境に応じた迅速な自立経営を進める。同社は「独自経営合弁会社」に位置づけられ、三菱重工グループの規模と利益の中核を担う。三菱重工として初の持ち株会社となる同社は、グループの新たな将来像を描き出せるか。

 MFETへの期待は事業規模だけでなく、昨年度まで三菱重工本体の筆頭副社長だった前川篤氏を社長に充てた人事からも透けて見える。前川社長は3事業の主力生産拠点だった当時の相模原製作所(相模原市中央区)を改革した立役者。2015年10月からはMFETの設立準備を指揮してきた。「(持ち株会社制は)三菱重工として初の試みだが、リーダーシップを発揮しながらMFETを大きくしたい」と、前川社長は力を込める。

 MFETは火力発電システム事業の三菱日立パワーシステムズ、三菱日立製鉄機械とシーメンスの製鉄機械事業の統合会社である英プライメタルズテクノロジーズに続く3社目の独自経営合弁会社となる。15年3月期の3社売上高を合算すると1兆8000億円。三菱重工の総売上高の約5割を稼ぐ。グループの全体戦略との整合性を担保しつつ、一線を画した柔軟な自立経営を志向。18年3月期に3社で売上高2兆7000億円を目指す。

 MFETの中核を担うフォークリフト事業では、3月末にユニキャリアホールディングスの買収を完了。ニチユ三菱フォークリフトとの協業を深化させ、事業拡大を狙う。両社の合算で世界シェアは3位に浮上し、首位の豊田自動織機を追う端緒をつかんだ。二ノ宮秀明ニチユ三菱社長も「フォークリフトはボリュームの大きい方が利益率も高くなる」とメリットを説明する。

 フォークリフト事業は、M&A(合併・買収)成立後のシナジーを最大化するプロセスであるポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)の推進が当面の焦点となる。調達や研究開発など「両社で重複するところは、可能な限り統合する」(前川社長)方針。合わせて、海外での協業や製品ラインアップの補完などを加速する。両社の経営統合については「2社並列でできることはやる。将来うまくいけば事業統合の選択肢もある」(同)と話した。

 ユニキャリアホールディングスを買収した三菱重工業。子会社のニチユ三菱フォークリフトとのシナジーで、世界首位の豊田自動織機を追う。シナジーの最大化に向け選択したのが、持ち株会社方式だ。統括会社の「三菱重工フォークリフト&エンジン・ターボホールディングス(MFET)」の傘下にニチユ三菱とユニキャリアを置き、調達や研究開発、業務部門などの共通化で収益性を高める計画だ。

 いずれにしても独自経営の成否は、18年3月期に事業規模5兆円を目指す三菱重工の試金石になるのは間違いない。MFETは短期間で事業を軌道に乗せることが求められる。
(文=長塚崇寛)

MFET、20年度に売上高1兆円へ


 三菱重工フォークリフト&エンジン・ターボホールディングス(MFET)は6日、売上高を2015年度の約7300億円から20年度に1兆円を目指す方針を明らかにした。フォークリフト事業で5500億円、エンジン・ターボチャージャー(過給器)事業で4500億円を見込む。

 営業利益も現在の500億円規模から、20年度に1000億円に倍増させる計画。前川篤社長は「利益率を10%に高めるのが課題だが、生産性を向上させるとともに、新市場を開拓する」と述べた。

 フォークリフト事業ではリチウムイオン電池や燃料電池ユニットを搭載するフォークリフトを事業化する。フォークリフトや搬送車を利用した無人搬送システムにも参入する。

 エンジン事業では分散型発電やコージェネレーション(熱電併給)市場の開拓を進める。またターボチャージャーは電動化への対応を強化して拡販につなげる。
日刊工業新聞2016年4月7日機械
長塚崇寛
長塚崇寛 Nagatsuka Takahiro 編集局ニュースセンター デスク
現時点で両社を合算すると売上高、売り上げシェアともに世界3位に躍り出るが、豊田自動織機とは依然として2倍以上の開きがある。前川篤MFET社長は「売上高やシェアではかなわないが、営業利益では追い抜く自信がある」とコメント。両社の協業は基幹部品の相互供給や、製品ラインアップの補完などメリットは多いが、収益性の高い筋肉質な事業体を構築することが、三菱重工グループへの最大の貢献となるだろう。

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