ニュースイッチ

データ駆動の専門家輩出…横浜市立大学学長が語る戦略

データ駆動の専門家輩出…横浜市立大学学長が語る戦略

横浜市立大学学長・石川義弘氏

コンパクトな規模ながら医学部が強く、公立大学の中でも存在感がある横浜市立大学。データサイエンス(DS)や経営学修士(MBA)も医療系との融合を特色とする。同大出身で、学生時代の留学に始まり米国で大学、病院、製薬会社と経験を積んできた石川義弘学長に、横浜から世界へ続く意識を聞いた。

―DS学部の開設は2018年度と早く、トップランナーの一校となっています。
 「統計学やプログラミングなどDSの基礎部分を固めたことから、生成人工知能(AI)をはじめとする新技術が次々に登場する社会で、活躍する人材の輩出に進みたい。27年度に『新データサイエンス学部』(名称未定)の設置を構想中だ」

―DS学部の入学定員は60人、もったいないと感じていました。
 「規模的に、デジタル人材の不足という社会課題に対応しきれない問題もある。今回は文系学部からの定員移動で、入学定員120人を検討する」

「DSの大学院は、医療分野とかけ合わせた“ヘルスデータサイエンティスト”育成が特色で、学部からの進学率は約3割。社会人の学び直しも含め、社会をけん引する高度データサイエンティストを増やしたい」

―文部科学省事業の共創の場形成支援プログラム(COI―NEXT)でも、横浜市大のテーマは独特です。
「若者の生きづらさ解消に向け、カウンセリングやコミュニケーション、デジタルメディスンの場を提供する、メタバース(仮想空間)上のプラットフォーム構築に取り組んでいる。本学は工学部でなく理学部だが病院を二つ抱え、さらに多数の大学と連携している。『地域中核・特色ある研究大学の連携による産学官連携・共同研究の施設整備事業』にも採択され、多様な連携強化のための環境整備を進めているところだ」

―就任時の抱負で「研究の横浜市立大学の確立」を掲げました。
 「生きづらさ解消のデジタル空間のように、研究では『ニッチだが大事な部分』『ここなら世界トップを目指せる』という意識も重要だ。土台としては基礎生命科学や医学、植物学などで論文の被引用数が高いことがある。地域は身近で相互の影響も大きいが、横浜から世界に発信する姿勢で取り組みたい」

【略歴】いしかわ・よしひろ 84年(昭59)横浜市大医卒。91年米コロンビア大医助教授。98年横浜市大医教授、20年副学長。神奈川県出身、65歳。

【記者の目/ファイナンス重視で挑戦】
 石川学長は米国生活が長く、企業で敵対的買収を受ける経験もした。それだけに「大学で大事なのはファイナンス。経営基盤をしっかりさせて挑戦する」と、自信を持って口にしている。(編集委員・山本佳世子)

日刊工業新聞 2024年06月25日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
DS学部をもう一つ?! …これは社会の大きな流れとなってきたDS部局新設に関わる、すべての国公私立大が注目する動きではないでしょうか。定員は現在の60人に対して倍の120人で設計、つまり「人気の横浜市大のDSの学部は3倍規模になる」という話です。前学長時代からの動きですが、米国の産学官を経験し「大学で大事なのはファイナンス」と口にする新学長ならでは、の戦略が注目されそうです。

編集部のおすすめ