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都会に日本の原風景、大阪・梅田の「里山」が体現しているもの

都会に日本の原風景、大阪・梅田の「里山」が体現しているもの

大阪駅から徒歩10分にある棚田。日本の原風景を思わせる

JR大阪駅から徒歩10分ほどに水田がある。周囲には高さや葉の形が異なる木々が茂っており、日本の原風景を思わせる。積水ハウスが整備した緑地で、環境省が生物多様性が守られた緑地を認定する「自然共生サイト」に選ばれた。都市に居ながら自然を感じられる場であり、同社の住宅事業での庭づくりにかける思いも体現している。(編集委員・松木喬)

「自然共生サイト」認定 積水ハウスが再現

JR大阪駅の北口に出ると、屋上が連結した2棟の超高層ビルが見える。大阪を象徴する建築物の一つである梅田スカイビルだ。そのビルの足元に緑地がある。水田は階段状に並んでおり、小さな棚田だ。畑もあり、ここだけ切り取ると地方の風景だ。

緑地の名称は「新梅田シティ 新・里山」。梅田スカイビルに本社を置く積水ハウスが整備した。8000平方メートルの敷地に100種の樹木が500本ある。雑木林に入ると枝と葉でトンネルができており、ヒヤっとした涼しさを感じする。途中、10人ほどのグループが説明員による解説を聞いていた。自然公園で見かけるような光景だ。

自然と同じような雑木林があり、都心であることを忘れさせてくれる

通常、ビルにある植栽は見た目を優先して季節を問わずに葉をつける常緑樹が選ばれやすい。落ち葉が少なく、管理費用も抑えられるためだ。新・里山は落葉樹も多いが、落葉を集めて堆肥にして敷地に戻している。地面がフカフカなのは、落ち葉が分解されて健全な土壌となっている証明だ。

ただ、都市部なので強風によって落ち葉が飛ばされ、敷地外に出ると近隣の迷惑になる。そこで散策路の途中にカーブを設け、落ち葉をせき止める工夫をしている。

緑地の中から梅田スカイビルの連結した屋上が見える

「茶の木」の生け垣もある。茶の木は害虫が多く発生することがあり、人が集まる場所での栽培は避けられている。一方、新・里山の茶の木には害虫が増殖しない。積水ハウス環境推進部の八木隆史氏は「野鳥が害虫をエサにしているから」と推測する。茶の木も含め、それぞれの生物が適切な個数で生存しており、生態系が保たれているようだ。

他社も含めてビルの敷地を緑化しても、都市部の自然を増やすには限界がある。しかし「都会にいながら、生物に触れる場があることで自然を大切に思う人を増やせる」(八木氏)と目的を語る。

さらに都市部の緑地は、日本特有の自然を再認識するきっかけにもなる。西洋では人が手を加えないことが自然保護という価値観がある。日本では森林を放置すると木が生え放題になり、かえって荒廃する。木材などで利用をしながら人と自然が共生してきた場所が「里山」であり、積水ハウスが都市部に再現した。

ただ、梅田スカイビルの開業当初の1993年、緑地の場所は花を植えた「フラワーパーク」だった。現在の姿への改修は2006年。「『5本の樹』計画を体現したい」(八木氏)という思いからだ。

「5本の樹」計画 鳥・チョウ呼ぶ

5本の樹とは、販売した住宅の庭に植樹する同社独自の活動だ。「3本は鳥のために、2本はチョウのために、地域の在来樹種を」がコンセプトで、住宅購入者の生活の身近で里山に思いをはせてもらう狙いだ。同社も率先して実践しようと新・里山を整備した。

01年にスタートした5本の樹は、22年までに1900万本を植えた。地元に生息する在来種にこだわったことで「在来種の流通網構築にも貢献した」(同)という。

また21年、琉球大学の久保田康裕教授の研究室とシンク・ネイチャー(沖縄県西原町)とともに、5本の樹による鳥やチョウへの効果を共同研究した。各地域の生物多様性データと植えた木を重ね合わせると、住宅地に呼び込んだ鳥の種類が2倍の18種、チョウは5倍の6・9種に増やす効果があったと分かった。

新・里山でも多くの野鳥が羽を休め、昆虫が生息する。再開発事業によって近隣に広大な緑地が作られており、さらに大阪の都市部の生態系が豊かになりそうだ。

日刊工業新聞 2024年06月21日

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