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売上高1兆円へ…世界に拠点、日立の「鉄道事業」が放つ存在感

売上高1兆円へ…世界に拠点、日立の「鉄道事業」が放つ存在感

日立は仏タレスの信号事業買収で利益率の拡大を見込む

日立製作所の鉄道事業の売上高が2025年3月期に1兆円の大台を超える(24年3月期は約8500億円)。5月末に買収を終えたフランス大手電機機器のタレスの鉄道信号事業が新たに加わったためだ。同時にデジタル事業と親和性の高い鉄道の制御システム部門の大幅な強化にもつながり、売り上げのみならず利益面でも拡大が期待できる。成長を続ける世界の鉄道事業で日立の存在感がさらに高まる。(編集委員・小川淳)

「今後成長するための基盤がすべてそろった」。日立製作所で鉄道事業を率いるジュゼッペ・マリノ鉄道ビジネスユニット最高経営責任者(CEO)はタレスの鉄道信号事業買収について、こう強調した。

日立は鉄道事業子会社の日立レールを通じ、同事業を16億6000万ユーロ(約2800億円)で買収した。これにより、新たに9000人の従業員と47カ国の拠点が加わり、日立の鉄道事業全体としては従業員2万4000人、51カ国の体制に拡充した。特に日立はこれまで主要拠点が日本、イタリア、英国、米国であり、ドイツやフランスなど欧州が中心のタレスの鉄道信号事業とは補完関係にあり、世界戦略が加速する。

さらに新たに加わった9000人の従業員はデジタル分野に強い高度な専門人材が多く、設計開発体制は2倍に増強されるという。マリノ鉄道ビジネスユニットCEOは「地理的なカバーも拡大したが、将来の勝者になるにはこのスキルが重要」と指摘する。

日立ではこの拡大した設計開発力を生かし、信号や運行管理システムのほか、運賃徴収システム、サイバーセキュリティーなどでの提案力を強化し、競争力を高めていく。

また、日立グループの米IT大手のグローバルロジックなどとの連携も深め、日立のIoT(モノのインターネット)技術基盤「ルマーダ」事業における鉄道ソリューションの拡充につなげていく構えだ。

例えば保守メンテナンスにおいては、鉄道車両などからさまざまなデータを入手して予測モデルを作りだし、従来の定期的なメンテから、どのタイミングで実施すればいいのかなど、より柔軟な対応も可能になり、コスト低減や安全性向上につながる。「OT(制御・運用技術)とITを組み合わせることで実現」(マリノ鉄道ビジネスユニットCEO)していく。

買収で日立は国際競争力を高める(イタリアに納入した高速鉄道車両)

買収で日立の鉄道事業の売上高は1兆円を超える。さらにこれまで車両部門60%に対して40%だった鉄道制御システム部門の比率が57%と逆転する。デジタルと親和性が高いうえ、持続的な収益が得られるため、利益率の拡大が期待できる。

カーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)の流れの中で世界の鉄道需要は拡大を続ける。鉄道市場において、日立は中国国有企業の中国中車(CRRC)、仏アルストム、独シーメンスに次ぐ位置にある。買収で国際競争力をさらに高め、シェアの拡大を狙う。


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日刊工業新聞 2024年月6月27日

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