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「ペロブスカイト太陽電池」電極材狙う…銀ナノワイヤ・CNTシートで製造プロセス簡素化

「ペロブスカイト太陽電池」素材を追う #07 電極材
「ペロブスカイト太陽電池」電極材狙う…銀ナノワイヤ・CNTシートで製造プロセス簡素化

銀ナノワイヤインク(右)とカーボンナノチューブ(CNT)シート(左)

次世代太陽電池の本命と期待される「ペロブスカイト太陽電池」の性能は構成する素材やそれを扱う技術の力も左右する。ペロブスカイト太陽電池をめぐる素材と関連技術の動向を追う。

ITO代替、安価に

ペロブスカイト太陽電池にフィルム基板を用いる場合、透明電極材料としては一般に「酸化インジウムスズ(ITO)」を成膜する。ただ、ITOは希少金属のインジウムを含むため高価だ。この代替材料として比較的安価かつ、溶液塗布の工程で基板に成膜できる、高い導電性や透明性を持つ「銀ナノワイヤ」が期待される。銀ナノワイヤは、太さがナノスケール(ナノは10億分の1)のワイヤ状の銀だ。星光PMC(東京都中央区)は14年に銀ナノワイヤの量産設備を稼働し、関連の技術やノウハウを蓄積している。

ITOは、溶液の塗布ではなく真空蒸着で成膜する。一方で、電子輸送層やペロブスカイト層、正孔輸送層はそれぞれ溶液を塗布して成膜できる。銀ナノワイヤを用いると、透明電極を含めて塗布で成膜できるようになるため、製造プロセスが簡素化され、低コスト化できる。「極端に言えば、他の層を塗布する装置で銀ナノワイヤも塗布することで電極を作る装置が不要になる」(星光PMC技術本部新規開発グループの植田恭弘氏)。

透明電極だけでなく、裏面電極の銀や銅などの代替素材としての利用も想定される。太陽電池の発電層は透明電極側から入った光と、発電層を透過して裏面電極から反射した光を吸収して電力に変える。銀ナノワイヤは透明性が高いため、裏面電極からの反射光はなくなり、変換効率は下がるものの、シースルーで透明なガラス窓のような意匠を備えた太陽電池として提案できる。また、シリコン太陽電池の上にペロブスカイト太陽電池を積層するタンデム型の場合、シリコン太陽電池に光を吸収させるためにはペロブスカイト太陽電池を透明にして光を透過させる必要がある。銀ナノワイヤはその際の裏面電極としても利用できる。

課題は耐久性だ。銀はペロブスカイト層の主原料であるヨウ素などのハロゲン化物と反応しやすく、それによって劣化する。星光PMCは現在、ペロブスカイト太陽電池の事業化を目指すメーカーに銀ナノワイヤのサンプル品を提供しており、評価を受けながら劣化しにくい材料組成やコーティング方法を模索している。

貼り付け、正孔輸送層も兼ねる

カーボンナノチューブ(CNT)」は炭素原子だけでできた直径がナノメートルサイズの円筒状の素材で、電気や熱の伝導性などに優れる。筒が 1 層のものは単層 CNT、直径の異なる複数の筒が層状に重なったものを多層CNTと呼ぶ。日本ゼオンは単層CNTをシートにした材料について、ペロブスカイト太陽電池の裏面電極と正孔輸送材を兼ねる材料として提案する。

裏面電極は一般に、銀や銅などが使われ、真空環境で成膜する。一方、CNTシートは貼り付けられるほか、正孔輸送層の役割も担うため、製造プロセスを簡素化できる。また、前出の通り、銀などの金属はハロゲン化物と反応しやすく、電極が劣化してしまう。CNTの場合はそうした劣化をせず、太陽電池の耐久性向上につながる。

日本ゼオンは、CNTシートを用いたペロブスカイト太陽電池を自社で開発し、これまでに変換効率12%程度を実現した。一部の完成品メーカーと採用の可能性を協議している。今後、CNTシートやペロブスカイト層の組成の最適化を進め、変換効率15%程度まで高めることで、完成品メーカーに対する提案力を強めたい考えだ。

日本ゼオンは06年から産業技術総合研究所とCNTの量産技術を共同開発し、単層CNTの量産工場を15年に世界で初めて稼働した。以来、粉体を中心に提供してきたが、応用先を広げるために多様な形状での提供を模索しており、シートはその一つだ。ペロブスカイト太陽電池に用いる場合、CNTシートを溶媒に浸し、温度や湿度などの環境を制御して貼り付ける。ペロブスカイト層を劣化させない溶媒や、貼り合わせる技術はすでに確立しているという。同社の内田秀樹CNT研究所長は「シート材料に(その利用に必要な関連技術などの)付加価値を付けて提案したい」と力を込める。

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