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脱炭素への効果・設置方法を検証…「ペロブスカイト太陽電池」実証相次ぐ、それぞれの狙い

脱炭素への効果・設置方法を検証…「ペロブスカイト太陽電池」実証相次ぐ、それぞれの狙い

基地局に設置したペロブスカイト太陽電池

次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の実証実験が相次ぎ始まっている。NTTデータやKDDIは薄く軽くて曲げられる特性を生かして自社のインフラ施設に設置し、脱炭素化に向けた効果を検証する。一方、ペロブスカイト太陽電池は耐久性の低さが実用化への課題として指摘されており、それを前提とした設置方法や事業モデルなどを検証する実証実験もある。

データセンターを脱炭素

東京都港区にある「NTT品川TWINSデータ棟」。NTTデータデータセンター(DC)を構える高層ビルの外壁に約1m×1mの大きさのペロブスカイト太陽電池が設置されていく。今春のことだ。地面に垂直な壁面に設置した太陽電池がどれくらいの電気を発電するか、都心部の建築物における太陽電池の施工方法、あるいは発電した電力をDC内で利用する仕組みについて29年3月頃まで5年間をかけて検証する。同社はこの検証状況を踏まえて、全国の自社ビルにペロブスカイト太陽電池を設置していく。

「データセンターは一般的なオフィスに比べて電力消費量が大きく、これまでの手段だけでは脱炭素化は難しい。新たに取り組むべき技術としてペロブスカイト太陽電池に可能性を感じた」。NTTデータソリューション事業本部ファシリティマネジメント事業部の佐藤光宏課長は実証実験の背景を説明する。

同社は国内14カ所のDCにおけるカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)について2030年までに達成する目標を掲げている。DCはサーバーの稼働や冷却に大量の電力を必要とする。再生可能エネルギーである太陽電池を設置してその電力を補おうとしても、都心部の高層ビルの場合、屋上や敷地内に設置場所を確保することが難しい。一方、郊外に設置した太陽電池の電力を利用しようとすると、送電に伴う損失が発生する。利用する現場で発電するエネルギーの地産地消も重要だ。同社はそうした課題に対応する技術として、外壁に設置できる薄くて軽いペロブスカイト太陽電池に白羽の矢を立てた。

ポールに巻き付ける

KDDIはペロブスカイト太陽電池を搭載した電柱型基地局を2月に稼働させた。直径15cm・長さ120cmのポールにペロブスカイト太陽電池を巻き付け、そのポール4本を基地局の高さ10m付近に設置した。曲げられる特性を生かしてポールに巻き付けて設置することで、上空に吹く風を受け流しやすく風荷重を受けにくい安全な構造にした。最大1年間の実証を行って発電量や耐久性などを検証し、設置場所を広げていく。

KDDIコア技術統括本部技術企画本部カーボンニュートラル推進室の市村豪室長は「基地局は全国に数万カ所ある。企業として脱炭素化を進めるためには、そうした設備を十分に活用して再生可能エネルギーを自ら作っていく必要がある」と力を込める。

同社グループは30年度のカーボンニュートラルを目標に掲げる。同社全体の電力使用量のうち約5割を基地局関連が占めており、その省電力化は課題だ。一方で、全国に数多ある基地局設備に少量ずつでも再エネ設備が設置できれば、全体では大きな発電量となり、脱炭素化への武器になる。鉄塔型の基地局では、太陽光発電による電力供給などを行う「サステナブル基地局」の運用を23年5月に始めた。ただ、基地局のうち過半数は電柱型で敷地面積が畳3畳分程度と小さく既存の太陽光発電の設置は難しい。そこで電柱に備え付けられる薄く軽くて曲げられるペロブスカイト太陽電池を生かすというわけだ。

耐久性問題と向き合う

NTTデータやKDDIの実証は、自社の脱炭素化に向けた効果を検証する狙いがある。一方、ペロブスカイト太陽電池を活用した事業を構想する主体による実証も広がる。特に、ペロブスカイト太陽電池は事業化に向けて耐久性の低さが指摘されており、それを前提とした設置方法や事業モデルの検証が始まっている。

北海道苫小牧市にある苫小牧埠頭(北海道苫小牧市)の物流倉庫。風は強く冬には積雪もある、日照時間も短い。太陽電池にとって厳しいこの環境で、日揮(横浜市西区)は4月にペロブスカイト太陽電池の実証実験を始めた。この実証は太陽電池の性能の確認に加えてもう一つ重要な狙いがある。同社が開発した「シート工法」の検証だ。倉庫や工場などで一般的な凹凸のある折板屋根や壁面の凸部分に、断面がΩ型のアレイで遮熱シートと一体化させたペロブスカイト太陽電池を固定して張る。施工が容易で、作業員1人当たり1日で約100㎡張れるという。この方法でシリコン太陽電池と比較して施工コスト2分の1以下を目指す。

シート工法を用いて倉庫の折半屋根にペロブスカイト太陽電池を設置した

「太陽電池自体の耐久性向上を待っていると社会実装に時間がかかってしまう。施工や交換が容易であれば、耐久性の問題に対応しつつ実用化できる。また、太陽電池の性能は日進月歩で向上するため、当初の製品を20年間使い続けるユーザーはなかなかいないだろう。その点でも交換容易であれば対応しやすい」。日揮未来戦略室の永石暁アシスタントマネージャーはシート工法の狙いを説明する。

もちろん、施工・交換は容易にしつつも、安全の確保は欠かせない。実証では固い板の上にしっかりと固定したペロブスカイト太陽電池も設置し、風などの外力による影響を比較する。日揮はシート工法の有用性を確認した上で、ペロブスカイト太陽電池を事業化する。倉庫・工場の屋根や壁面などを借りて、その施設の所有者にペロブスカイト太陽電池による再生可能エネルギーを供給するビジネスモデルを構想している。

横浜市中区の大さん橋で3月に始まった実証実験も「交換容易な設置構造の確立」を検証テーマに据える。実施主体であるマクニカのイノベーション戦略事業本部サーキュラーエコノミービジネス部第一課に所属する阿部博主席は「耐久性の課題を考慮しつつ、軽く取り回しが容易なペロブスカイト太陽電池の特性を生かせる交換容易なモジュールを設計したい」と意気込む。具体的な構造としてはマジックテープや接着剤などを用いた方法を模索していく。

マクニカなどは大さん橋で実証する

マクニカはペロブスカイト太陽電池に関わる素材や製造技術を持つ麗光(京都市右京区)やペクセル・テクノロジーズ(川崎市麻生区)などと連携して26年頃にフィルム型ペロブスカイト太陽電池を事業化したい考え。環境省の支援を受けて研究開発を進めている。交換容易な設置構造のほか、変換効率15%のペロブスカイト太陽電池をR2Rプロセスで製造する技術などについて25年度中の確立を目指す。

円筒型で交換容易

耐久性の問題に対する回答としては「円筒型」も注目だ。薄膜の太陽電池シートを最長で長さ120cm程度のガラス管に丸めて挿入し、両端に電極を付けて完全に封止する。複数本並べて設置するとすだれのようにその隙間を風が通り抜けるため頑丈な施工が要らず、蛍光灯のように容易に交換できる。電気通信大学の早瀬修二特任教授やウシオ電機、CKD、フジコー(福岡県北九州市)が共同で研究開発を進める。建物壁面のほか、農地に支柱を立ててその上部に太陽電池を設置し、農業生産しながら発電する営農型太陽光発電などの需要開拓を狙う。

開発のきっかけはウシオ電機だ。ランプメーカーである同社が自社の製造技術を生かせる新製品として太陽電池に着目した。09年のことだ。次世代太陽電池として期待されつつ、耐久性に課題があった「色素増感太陽電池」の長寿命化に、自社のガラス封止技術を生かそうと考えた。その後、同じく耐久性に課題があり、より変換効率が高いペロブスカイト太陽電池が登場し、それを生かすことを念頭に、研究開発を続けている。

23年度には東京都調布市にある電気通信大学のキャンパスで実証実験を行った。円筒型太陽電池を壁面に8本設置し、設置方法などを検証した。24年度中には同キャンパスに2000本程度設置し、大規模実証を始める。また、21-22年にかけて約1年間、ビニールハウスの天井部分に720本設置し、チンゲンサイを栽培しつつ、発電する実証実験を行った。円筒型は隙間から光も通すため、平板型の太陽電池を設置する場合に比べて栽培に悪影響を与えにくい効果を確認している。設置する本数を変えることで、農作物に届ける光の量を柔軟に変えやすい特徴も売りになるという。

電気通信大学のキャンパスに設置した「円筒型太陽電池」

円筒型は、吸収が得意な波長が異なる二種類以上のフィルム型太陽電池を積層したタンデム型にも対応できる。ウシオ電機事業創出本部マーケティング部門クライメイト・ソリューション部の中村雅規エグゼクティブスペシャリストは「(タンデム型により)将来はより変換効率の高い製品を提供したい」と意気込む。

一方、直近の事業化に向けて課題はコストだ。封止工程に費用がかさみ、全体のシステムが割高になるからだ。また、円筒型は外部からフィルム型ペロブスカイト太陽電池の供給を受けて製品化する予定。ただ、まだ市場に製品はない。これまでの実証実験では薄膜だが、ペロブスカイト太陽電池に比べて変換効率が低い「アモルファスシリコン太陽電池」を利用している。このため、完成品メーカーの動きも円筒型の事業化の動向を左右する。

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