トヨタ、ホンダ、マツダ…不正行為が発覚、モノづくりにのしかかる負担
自動車メーカーに法規違反という課題が重くのしかかっている。トヨタ自動車とホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機の5社で量産に必要な「型式指定申請」において不正行為が発覚した。自動車は日本の基幹産業であり、不正が産業競争力や積み上げてきた製品の信頼性に影を落としかねない状況だ。一方、ここ数年車両メーカーでの認証不正が相次いでおり、認証業務のあり方がメーカー側の大きな負荷になっている面も否めない。(特別取材班)
試験で有効データ確認
型式指定の申請は車を量産・販売するために必要なプロセス。これにより車の環境性能や安全・安心を担保する。国のルールに沿った方法で、定められた基準を達成しているかを確認する。認証取得は三つあり、一つは試験時に認証審査官が立ち会う方法。もう一つはメーカーが認証試験を実施しデータを提出する。三つ目は開発試験での有効データを認証試験データにできる。
今回、トヨタでは現行生産車3車種で乗員や歩行者の保護に関する試験データの不備と、過去に生産した4車種で衝突試験の方法に誤りがあった。マツダは、現行生産車2車種で出力試験におけるエンジン制御ソフトの書き換えや、過去生産車3車種では衝突試験における試験車両の不正加工が明らかに。ホンダも過去生産車22車種で、騒音試験における試験成績書の虚偽記載などが判明した。このほかヤマハ発動機やスズキでは不適正な条件で試験が実施された。
トヨタ/認証業務、最適解を模索
「お客さま、クルマファン、ステークホルダーに心よりおわび申し上げる」―。3日、都内で会見したトヨタの豊田章男会長はこう陳謝した。豊田会長はまだ調査段階としながらも「14年以降、生産終了を含め7車種で、国が定めた方法とは異なる方法で試験していた」と説明した。
トヨタグループでは日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機と型式認証に関する不正が続いており、豊田会長は「残念な気持ち。トヨタも完璧な会社ではない。改善の余地があるという気づきをあたえてもらった」と話した。
モノづくりを重要視するトヨタでなぜ不正が起きたのか―。豊田会長は「理由は一つではない」としながらも、まず認証業務のリードタイムの長さを指摘する。「長いリードタイムで多くの部署が関わる。また、認証の仕事は曖昧で、属人的。個人の技能に頼っている面もある」と認証業務の複雑性を指摘する。
この問題を解決すべく、トヨタでは認証項目において各工程がなすべき作業を標準化し、保証すべき品質基準を整備することに着手した。ただまだこの作業も途中で「24年の年末くらいまでかかる」(豊田会長)見込みだ。
今回のトヨタの調査では、衝突試験時に認証では1100キログラムの台車を衝突する必要があるところ、より厳しい1800キログラムの台車をぶつけ、そのデータを認証申請に使用するなどの事案が大半を占めた。豊田会長も「本来よりも重い・厳しい試験をしているからいいだろう。そう判断があった」と振り返る。
こうした行為は認証制度の根底を揺るがすもので自動車メーカーとしてやってはいけないことではあるが、自動車メーカー各社で認証に関するさまざまな問題が起きている。「ユーザーのために最もいい方法はなにか。業界の競争力のために国とも話し合うきっかけにしたい」と認証業務のあり方に関する最適解を模索する考えも示した。
ホンダ/順法・行動規範を再認識
ホンダは過去に販売した4輪車の試験で4件の不適切な事案を確認した。騒音試験では法規の規定範囲を超えた重量で実施(試験条件の不備)と、試験成績書で実際に試験した車両の重量と異なる指定範囲内の数値を記載(虚偽記載)の2事案があった。
原動機車載出力試験、電動機最高出力および定格出力試験では、試験結果の出力値およびトルク値を書き換えて試験成績書を記載した(虚偽記載)。原動機車載出力試験ではオルタネーターを発電せずに試験を実施した(試験条件の不備)。試験条件よりも厳しい条件や同一諸元エンジンで得られた出力値ならば性能上、違法性には問題がないと判断してしまっていた。
現在はコンプライアンス(法令順守)教育を行い、18年以降、不適切事案は発生していない。だが、三部敏宏社長は「いま一度、順法精神や行動規範を再認識して気を引き締めていく」と述べ、月内に順法精神向上のための研修を実施する。また、型式指定申請に特化した監査体制を24年度より運用を開始したほか、25年度に認証プロセスをデジタル化するなど監査体制を強化していく。
マツダ/隠蔽・悪意は見当たらず
マツダは全型式指定申請2403試験を対象に調査し、二つの試験項目で計5件の不正事案を確認した。該当車両は約15万台に上る。他社が23年に公表した不正事案の第三者委員会による調査報告書をマツダのエンジニアが読み、自社にも類似の事案があると部門長に相談したことで社内調査に着手。毛籠勝弘社長には1月上旬に情報が入ったという。
不正を確認した車種のうち、出力試験で不正があった現行生産車のスポーツカー「ロードスターRF」とコンパクトカー「マツダ2」は出荷を停止した。吸気温度の異常上昇時に実車走行環境では働かない点火時期補正機能の一部をソフトウエアで止め、設計時の出力値を得たもの。
毛籠社長は不正が起きた背景について「業務の手順書の一部が十分ではなかったために現場の自己的な解釈を生み、法令に定められた手続きから逸脱してしまった」と説明。「組織的な隠蔽(いんぺい)や悪意は見当たらなかった」(毛籠社長)として経営陣の責任や処分については現時点で時期尚早とした。
国交省/根本解決、信頼回復を 現場把握、負の連鎖切る
「(不正事案を)出すなら今ですよ」―。国土交通省が自動車メーカーなどの型式指定申請で不正行為が行われていないか各社に自主調査を求めるにあたり、国交省の担当者は念を押した。調査の狙いは単に不正の有無ではなく、現場で何が起きているのかをしっかり分析し、同じ事を繰り返さないよう負の連鎖を断ち切る事だ。調査期限も延ばし、時間切れにならないようにした。
不正行為の真因はコンプライアンスの問題ではない。検査人材の不足や開発期間の短縮など、現場のプレッシャーは強まり疲弊している。そんな中「創意工夫」か「越えてはいけない一線」なのか正しい判断ができないケースが出ている。ただ、国に提出した検査データが元データから書き換えられような場合、見抜くことは不可能だ。型式制度自体がメーカーの自主検査という性善説に立っている以上、信頼関係を回復するしか根本的な解決策はない。
16年に三菱自動車が燃費不正を起こした際、国交省は監視や罰則規定の強化などを行った。それでも同様の事案は繰り返される。ダイハツ工業などの事案を受けて有識者検討会を設ける一方、自動車業界に自主報告を求めた。最後通牒であり、実は最も厳しい指導だ。
日本の型式認証は国際基準に準拠し、欧州諸国などと相互承認している。日本のモノづくりの信頼が試されている。
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