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「ペロブスカイト太陽電池」市場に挑む、エネコート・リコーが自負するそれぞれの技術

ペロブスカイト太陽電池-事業化への現在地(下)
「ペロブスカイト太陽電池」市場に挑む、エネコート・リコーが自負するそれぞれの技術

【右】エネコートテクノロジーズのペロブスカイト太陽電池(エネコートテクノロジーズ提供)【左】都内の小学校で実証実験するリコーのペロブスカイト太陽電池(24年1月撮影)

ペロブスカイト太陽電池の実用化が近づいている。中国や英国などの海外メーカーを含め、事業化を目指す動きが世界で活発になる中、国内メーカーは市場をどう勝ち抜くか。それぞれの研究開発や事業戦略の現在地を追う。3回目は技術や知見に特徴を持つエネコートテクノロジーズとリコーなど。

24年に販売開始、将来は非鉛化も

エネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)はペロブスカイト太陽電池の事業化を目指す京都大学発のスタートアップだ。京大化学研究所の若宮淳志教授と同大学生時代に同期だった加藤尚哉社長が2018年に共同創業した。京大と共に研究開発する体制が強みで、24年内にIoT(モノのインターネット)センサー向けなどの小面積の製品について販売先を限定して供給を始める。

量産ラインを整える拠点の計画も進めており、25年以降に稼働する見通し。自社生産のほか、太陽電池のモジュール製造に関わる特許技術や知見を提供して生産委託する構想も持つ。センサー用途や車載、建物用など多様な需要に応えていく。

試作ラインは23年11月頃に稼働した。フィルムを基板にした370mm×470mmのG2サイズで変換効率15.2%を実現しており、25年度までに900㎠で変換効率18%、耐久性15年相当の達成を目指す。ペロブスカイト太陽電池は発電層を大面積で均質に成膜する難易度が高いが、そのプロセスの安定性も高まってきたという。同社の堀内保最高技術責任者(CTO)は「京大は(発電層の成膜が上手くいかなかった場合などにその)現象の背景を科学的に考えられる知見や装置を持っており、(プロセスの改善に)役立っている」と説明する。

共同創業者の若宮教授は、有機化学が専門で「ホウ素」に関わる基礎研究に励んだ後、13年頃にペロブスカイト太陽電池の研究を始めた。16年に日本で初めて変換効率20%以上を達成し、22年には鉛の一部をスズに置き換えたペロブスカイト太陽電池で変換効率23.6%を実現している。ペロブスカイト太陽電池は、毒性のある鉛を含む問題が指摘されている。適切な管理・回収体制を整備した上での実用化が期待されるが、鉛の量を減らしたり無くしたりした製品の実現は待望される。エネコートは京大の研究成果を生かしながら、鉛を減らした製品の事業化を目指す。

また、エネコートはペロブスカイト太陽電池の利用を検討する大企業から注目を集めている。KDDIや豊田合成などから資金を調達しているほか、共同研究を相次ぎ始めている。トヨタ自動車とは車載用、三井不動産レジデンシャルとは住宅用について共同研究の開始をそれぞれ23年に発表した。加藤社長は「(共同研究を求める企業の声は)研究開発を進める上で励みになる」と力を込める。

プリンターで培った技術・知見を生かす

リコーは開発中のペロブスカイト太陽電池の性能や、事業化の目標時期を明らかにしていない。ただ、ペロブスカイト太陽電池の製造に利用する印刷の技術や知見、ペロブスカイト太陽電池と同じ有機系太陽電池を量産化した実績を持っており、有力企業の一社と言える。

同社はノズルやインクを自社開発した産業用ロール・ツー・ロール(R2R)インクジェットプリンター製品を14年から供給しており、インクジェット技術を活用した電子デバイス製造にも取り組んできた。有機系の色素増感太陽電池は19年に事業化した。こうした技術・知見を生かして製造プロセスの確立と材料開発を進めている。 同社先端技術研究所IDPS研究センターPV-PTの田中裕二氏は、「『太陽電池』『インクジェット』『R2R』という三つの要素の組み合わせでは我々が一番確度の高い技術を持っているのではないか」と自信を見せる。

ペロブスカイト太陽電池の発電層について、インクジェットで均質に成膜するためには、ノズルから吐出した隣り合う微細な液滴を最適に融合させる技術が重要になる。リコーはそれに応用できる技術を多く持つ。20年には東京工業大学と共同研究講座を立ち上げ、インクジェットによる液滴の挙動を解析する基礎研究をしており、この研究成果も生かせる。同社先端技術研究所IDPS研究センターの太田善久所長は「印刷技術はノウハウの塊。(産業用プリンターの製品開発などで培ったノウハウは)そう簡単にはキャッチアップされないだろう」と胸を張る。

塗った溶液を乾燥して結晶化させる工程も重要だ。産業用プリンターでは溶液を塗布した紙の裏側から熱を加えるロールヒートや、表面に強い風を送るエアブローを使って乾燥させる。この点でもリコーは独自技術を持っており、ペロブスカイト太陽電池の成膜にどのように応用するかを模索している。ペロブスカイト太陽電池は「ペロブスカイト層」「電子輸送層」「正孔輸送層」という3つの厚さが異なる層を成膜する。一方、R2Rは基板が一律の速度で動くため、厚さの異なる膜を、生産性をなるべく落とさずに、同等の速度で結晶化させる乾燥工程の確立を目指す。

基板候補の一つとして、極薄のフレキシブルガラスを用いた研究開発をしている点も特徴だ。R2Rに適用できる薄さで、数百℃の高温乾燥プロセスに耐えられるため、生産速度の向上が期待できる。製造時に割れてしまうリスクがあり、取り扱いの難しさはあるものの、完成品においてもフィルムより水分を通しにくく耐水性が求められる環境での耐久性に貢献する。

同社は顧客の需要に応じた製品展開を見据えてフィルムを基板に用いた研究も進める。田中氏は「世の中のトレンドに対してタイムリーに製品化して投入できるように技術開発を進める」と意気込む。

カネカ・シャープも

このほか、カネカシャープも研究開発に乗り出している。カネカは27-28年頃の事業化を目指し、フィルム型ペロブスカイト太陽電池と、ペロブスカイトとシリコンのタンデム型の研究開発を進めている。変換効率は4月時点でフィルム型が面積64㎠で22.2%、タンデム型は面積64㎠で30.7%を実現している。一方、シャープはシリコンとペロブスカイトを積層したタンデム型の研究開発に注力しており、変換効率30%超を26年に達成することを目標に掲げている。

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