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「ペロブスカイト太陽電池」事業化近づく…フィルム型で挑む積水化学・東芝の現在地

ペロブスカイト太陽電池-事業化への現在地(上)
「ペロブスカイト太陽電池」事業化近づく…フィルム型で挑む積水化学・東芝の現在地

【右】積水化学のペロブスカイト太陽電池(積水化学工業提供)/【左】東芝エネルギーシステムズのペロブスカイト太陽電池(東芝提供)

ペロブスカイト太陽電池の実用化が迫っている。積水化学工業東芝エネルギーシステムズパナソニックなどが25年以降の事業化を目指す。ペロブスカイト太陽電池は軽く薄く柔軟な特性を持たせられるため、既存のシリコン太陽電池が設置できない耐荷重の低い屋根や壁面などに設置できる。政府は脱炭素化のキー技術として期待しており、社会実装や普及を推進する。今年中にも導入目標を示す方針で、設置者への補助を含めて制度の検討を進める。再生可能エネルギーの電力を高く買う固定価格買い取り制度(FIT)で優遇する仕組みも今秋をめどに検討を本格化させる方針だ。

一方、ペロブスカイト太陽電池は世界が注目しており、中国や英国のメーカーなどの動きも活発だ。国内メーカーはその市場をどう勝ち抜くか。それぞれの研究開発や事業戦略の現在地を追った。初回はフィルムを基板に用いて薄く曲げられる太陽電池の供給を目指す、積水化学と東芝エネルギーシステムズ。(全3回)

【新刊】「素材技術で産業化に挑む-ペロブスカイト太陽電池」

R2Rプロセスを確立、国内で先行

「持続可能な事業戦略を検討するフェーズに入った」-。積水化学PVプロジェクトの森田健晴ヘッドは力を込める。同社の中でペロブスカイト太陽電池はここ数年で研究から製品開発、そして事業戦略を検討する対象へと着実に事業化への階段を上ってきた。現在は建物壁面や火力発電所、水上など多様な場所で性能や施工法などを検証する実証実験を実施している。25年の事業化を目標に掲げており、その実現が目前に迫る。国内メーカーの中で先行企業と言える。

ロール状の長いフィルム基板を巻きだして成膜・加工していく製造方法をロール・ツー・ロール(R2R)と呼ぶ。短い基板1枚ずつに成膜・加工するシート・ツー・シートに比べて一般に設備が安価で、生産速度を速められるため、製造コストの低減が見込める。同社はこのR2Rプロセスで変換効率15.0%、耐久性10年相当の性能を持つ30cm幅のフィルム型ペロブスカイト太陽電池を作製できる工程を確立している。25年までに耐久性を20年相当に伸ばすと同時に、1m幅でのR2Rプロセスの確立を目指す。愛知県内の拠点に1m幅の製造装置の整備を進めている。

R2Rプロセスの確立や高い耐久性は、既存製品で培った技術や知見で実現した。R2Rはセロハンテープやクラフトテープをはじめとする多様な粘着テープ製品の高速生産に利用してきた。また、ペロブスカイト太陽電池の耐久性は発電する層を水蒸気や酸素から保護する封止樹脂が重要で、同社は世界トップシェアを持つ液晶用シール材や自動車向け合わせガラス用中間膜の技術を応用してそれを開発している。

需要開拓の動きも活発だ。大阪市夢洲で25年に開催する大阪・関西万博には、交通ターミナルのバスシェルター屋根に設置する約250m分のペロブスカイト太陽電池を提供する。東京都千代田区で28年度の完成を予定する超高層ビルの壁面に1MW(メガワット)分を設置する計画もある。このほか、いち早く量産による低コスト化を図るため、大面積での導入が見込める需要を模索している。具体的には、政府が導入推進の方針を示している空港の駐車場や鉄道の法面などを想定する。

海外市場にもすでに目を向けている。一定の性能や製造プロセスを確立している日本製ペロブスカイト太陽電池に対して「欧米の関心は高い」(森田ヘッド)。スロバキア共和国とは2月に、同国におけるペロブスカイト太陽電池の活用に向けて法規制などの課題について同国内の大学や研究機関と共同で検討する覚書を結んだ。

一方、事業化当初は、量産品のシリコン太陽電池に比べて割高になる。当初は政府による導入補助が見込まれるが、「補助がなくなった後も成立する事業体制を見据えなくてはいけない」(森田ヘッド)。また、ペロブスカイト太陽電池の耐久性を評価する方法はまだ確立しておらず、『10年相当』といった耐久性能は、既存の太陽電池(アモルファスシリコン太陽電池)用に作られた評価方法を基に算出した値に過ぎない。このため「(製品に対する)保証期間の設定はリスクが大きい」(森田ヘッド)事情もある。

同社の中期経営計画では25年度に事業規模5億円以上を掲げる。まだ市場がない状況で事業計画をどう描くか。量産体制の規模など難しい検討を迫られている。

世界最高水準の変換効率、将来はタンデム型も

東芝エネルギーシステムズもフィルム型ペロブスカイト太陽電池で25年度以降の事業化を目指す。変換効率は面積703㎠で16.6%の世界最高水準(22年10月時点)を達成している。事業化に向けて変換効率20%、耐久性は15-20年相当を目標に掲げる。

ペロブスカイト太陽電池の発電層は溶液を塗布して生成するが、この際に大面積で均質な層を作製できるかどうかが性能を左右する。東芝エネの高い変換効率は、表面張力を利用した独自の塗布技術で実現した。フィルム基板と細長い円柱状の装置(アプリケータヘッド)の間に設けた50㎛-1000㎛(マイクロメートル)の隙間に原料の溶液を注入し、表面張力によってできる円弧状の液面(メニスカス)が形成された状態でフィルム基板を移動させて成膜する。

有機薄膜太陽電池用の研究開発で1990年代から研究しており、技術やノウハウを蓄積してきた。東芝はこのメニスカス塗布法を軸に製造プロセスの確立を図っていく。

需要先は軽く薄くて曲げられるフィルム型の特性が生かせる耐荷重の低い屋根や外壁などのほか、大面積の設置が見込める鉄道の法面や空港の駐車場などを想定する。

一方、フィルム型以外の事業機会も見据える。ペロブスカイト太陽電池とシリコン太陽電池を積層するタンデム型だ。タンデム型はシリコンとペロブスカイトが、吸収を得意とする光の波長が異なる特性を利用し、より幅広い波長の光を吸収できるようにして高い変換効率を実現する。米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)によると、23年9月時点でペロブスカイト太陽電池単体の変換効率が最高26.1%なのに対し、タンデム型は33.9%が報告されている。

タンデム型は、シリコン太陽電池を展開する中国メーカー大手の多くが、シリコン太陽電池の高付加価値化に向けた研究開発の計画に盛り込んでおり、将来有望な市場とも目される。同社エネルギーアグリゲーション事業部次世代太陽電池開発部の戸張智博部長は「(将来の市場に備えて)知見を得るために、研究開発している」と説明する。

例えば、23年には耐久性の高い変更効率21.2%のタンデム型を開発し、真夏の直射太陽光を模した疑似太陽光を1000時間連続で照射しても変換効率の低下(劣化率)が10%未満に留まる成果を世界で初めて実現した。今後、シリコン太陽電池メーカーとの協業体制の構築などを含めて事業機会を模索するという。

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