「残業ゼロ」だけでは理想の職場は実現しない!?
<情報工場 「読学」のススメ#2>『ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社』(岩崎裕美子著)
**「理想の会社」をつくるまでの紆余曲折
「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は、すっかり日本人の間に浸透しているのではないだろうか? 2007年に官民が合意して「仕事と生活の調和憲章」が策定されて以来、その実現のための取り組みが進められている。報道によれば、今年3月22日に政府の「すべての女性が輝く社会づくり本部」は、国発注工事や物品購入の調達にワーク・ライフ・バランスを推進している企業を優遇するとの指針を定めたそうだ。
だが、実態はどうか。不動産情報を手がけるオウチーノが昨年、20~39歳の独身男女662名にウェブアンケートを行なったところ、約9割が「仕事とプライベートを両立したい」と考えているものの、「仕事とプライベートを両立できていない」との回答が50.7%を占めたという。
いくら政府が旗を振り指針を定め、取り組みを進めたとしても、それだけで個々人のワーク・ライフ・バランスは実現しないのは言うまでもない。働く人の意識が変わらなければならない。では、どのように変えていけばいいのだろうか? 岩崎裕美子著『ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社』(クロスメディア・パブリッシング)に、そのためのヒントを見ることができる。
著者の岩崎さんは、タイトル通り残業ほぼゼロで高い業績を上げ続けているベンチャーの化粧品会社「ランクアップ」の創業社長。本書では、自らの「理想の会社」を作り上げるまでの紆余曲折を語っている。岩崎さんはもともと、社員全員が「定時は終電」と言われるほどのハードワークが強いられ、それが原因で離職者が続出するベンチャーの広告会社の取締役だった。ランクアップは、その時の反省から、創業当初より「長時間労働をさせない」方針の経営を貫いている。
「18時だよー! 帰るよー」。ランクアップでは、創業から4年たった頃、定時の退社時間になると取締役の日高氏からこんな“号令”がかかるようになった。これは、ずるずると長時間労働が増えることを防ぐために始められた習慣だという(18時退社は当時の定時。現在の定時では17時30分だが「17時で帰ってもいい」という制度が設けられている)。ある程度強制的に定時を守らせるようにしたのだ。
何であれ、物事を定着・浸透させるためには、スタート時に無理やりにでも規則や枠にはめる必要があるのかもしれない。この段階を「強制期」と名づけよう。
熊谷徹著『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』(青春新書)は、少ない労働時間で高い生産性を上げるドイツ人の謎に迫っている。その理由の一つは、ドイツの法律と労働安全局が、民間企業の労働者の長時間労働を規制し、違反を厳しく取り締まっているからだという。こうした上からの“強制”が、労働者の集中力と、イノベーションと効率化につながる「心身のコンディション」を高めていったのだ。
「強制期」が続き、各々が規制や枠に慣れてくると、今度はそれを土台に一人ひとりが「自分のやり方」を確立していくことになる。「定時に帰る」ことを強制されていた場合には、定時退社を前提とした「自分の働き方」を見出していくのが理想だ。この段階を「自発期」と呼ぶこととする。
「強制期」から「自発期」へ、いかにスムーズに移行するかが、物事の成否を決めるのではないか。実は、「皆が生き生きと働く職場づくり」をめざしたランクアップは当初、この移行に“失敗”した。そう、本書は単なる「残業がなくて、みんなが育休を取れて復職できる幸せな会社」の成功物語ではない。そこからの挫折と苦悩をどう乗り越えたかが、むしろ本書の主題なのだ。
<次ページ:残業ほぼゼロも社員の顔は暗く…>
「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は、すっかり日本人の間に浸透しているのではないだろうか? 2007年に官民が合意して「仕事と生活の調和憲章」が策定されて以来、その実現のための取り組みが進められている。報道によれば、今年3月22日に政府の「すべての女性が輝く社会づくり本部」は、国発注工事や物品購入の調達にワーク・ライフ・バランスを推進している企業を優遇するとの指針を定めたそうだ。
だが、実態はどうか。不動産情報を手がけるオウチーノが昨年、20~39歳の独身男女662名にウェブアンケートを行なったところ、約9割が「仕事とプライベートを両立したい」と考えているものの、「仕事とプライベートを両立できていない」との回答が50.7%を占めたという。
いくら政府が旗を振り指針を定め、取り組みを進めたとしても、それだけで個々人のワーク・ライフ・バランスは実現しないのは言うまでもない。働く人の意識が変わらなければならない。では、どのように変えていけばいいのだろうか? 岩崎裕美子著『ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社』(クロスメディア・パブリッシング)に、そのためのヒントを見ることができる。
著者の岩崎さんは、タイトル通り残業ほぼゼロで高い業績を上げ続けているベンチャーの化粧品会社「ランクアップ」の創業社長。本書では、自らの「理想の会社」を作り上げるまでの紆余曲折を語っている。岩崎さんはもともと、社員全員が「定時は終電」と言われるほどのハードワークが強いられ、それが原因で離職者が続出するベンチャーの広告会社の取締役だった。ランクアップは、その時の反省から、創業当初より「長時間労働をさせない」方針の経営を貫いている。
最初はある程度の「強制」が必要
「18時だよー! 帰るよー」。ランクアップでは、創業から4年たった頃、定時の退社時間になると取締役の日高氏からこんな“号令”がかかるようになった。これは、ずるずると長時間労働が増えることを防ぐために始められた習慣だという(18時退社は当時の定時。現在の定時では17時30分だが「17時で帰ってもいい」という制度が設けられている)。ある程度強制的に定時を守らせるようにしたのだ。
何であれ、物事を定着・浸透させるためには、スタート時に無理やりにでも規則や枠にはめる必要があるのかもしれない。この段階を「強制期」と名づけよう。
熊谷徹著『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』(青春新書)は、少ない労働時間で高い生産性を上げるドイツ人の謎に迫っている。その理由の一つは、ドイツの法律と労働安全局が、民間企業の労働者の長時間労働を規制し、違反を厳しく取り締まっているからだという。こうした上からの“強制”が、労働者の集中力と、イノベーションと効率化につながる「心身のコンディション」を高めていったのだ。
「強制期」が続き、各々が規制や枠に慣れてくると、今度はそれを土台に一人ひとりが「自分のやり方」を確立していくことになる。「定時に帰る」ことを強制されていた場合には、定時退社を前提とした「自分の働き方」を見出していくのが理想だ。この段階を「自発期」と呼ぶこととする。
「強制期」から「自発期」へ、いかにスムーズに移行するかが、物事の成否を決めるのではないか。実は、「皆が生き生きと働く職場づくり」をめざしたランクアップは当初、この移行に“失敗”した。そう、本書は単なる「残業がなくて、みんなが育休を取れて復職できる幸せな会社」の成功物語ではない。そこからの挫折と苦悩をどう乗り越えたかが、むしろ本書の主題なのだ。
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