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東京学芸大・東京海洋大…国立大の土地活用、長期貸与で大型資金獲得

東京学芸大・東京海洋大…国立大の土地活用、長期貸与で大型資金獲得

東京医科歯科大は土地活用収入を使って湯島キャンパスの再開発に入る(湯島キャンパス=同大提供)

国立大学の外部資金獲得策のうち、中長期の安定や大型一時金という魅力を持つのが定期借地権を使った土地貸与だ。規制緩和で2017年度から可能になり、これまでの認可は26法人からの50件弱に上る。単なる土地貸しではなく、大学の教育・研究・社会貢献との連動も重要だ。東京学芸大学、東京海洋大学、東京医科歯科大学を事例に、近年の状況を見ていく。(編集委員・山本佳世子)

使い道は自由、地方大も取り組み開始

国立大学は04年度の国立大学法人化の時に、それぞれ土地を国から譲り受けた。売却する場合は金額の半分は自由に使えるが、半分は大学改革支援・学位授与機構を通じて他大学支援に回される。

その後、国立大の経営力強化を目的に、使用予定のない遊休地に限り、第三者に定期借地で貸し付けられるようになった。収入の使い道に制限がないのが魅力で、大規模大学なら運用益を狙った基金の原資にも回せる。認可手続きは24年4月から、さらに簡素化された。

都市部の大学に限られるとうらやむ声もあるが、「県庁所在地にある地方大学も多く、事例はそれなりに出ている」(文部科学省高等教育局・国立大学法人支援課)。長崎大学が早くから動いたほか、富山大学や山口大学なども取り組む。初期は「駐車場用途で10年貸与」など小ぶりな事例が多かったが、近年は「マンション・複合施設で75年」など大がかりなものが増えている。

東京学芸大 辻料理と教育で相乗効果

この4月、東京学芸大学のキャンパス(東京都小金井市)の一角で、学校法人辻料理学館の「辻調理師専門学校 東京」が開校した。同大の土地3900平方メートルを40年にわたって貸与する形で実現した。

両者は同大付属学校園を巻き込んだ食育や、食料生産と関わる環境教育などで相乗効果を思案する。「(大学と専門学校という)切り口の違う教育機関同士という点がポイントだ」と松田恵示理事・副学長は、通常の公教育とも大学間とも異なる連携に期待を示す。

東京海洋大が計画する国際混住寮のイメージ(同大提供)

きっかけは産学・地域連携の同大教育インキュベーションセンターを通して親しくなった三菱地所が、辻料理学館の土地探しを知らせてくれたことだ。幸い、前身の師範学校が日本でテニスを普及させた関係で、テニスコートが10数面あった。このうち、外周道路に面する土地を提供することにしたという。

土地貸し付けによる収入は年5000万円ほど。教員養成系の単科大学だけに、自由に使える外部資金は貴重だ。教育・研究面でのメリットと、中長期の安定的な収入確保と、双方で成果を出そうとしている。

東京海洋大 品川に国際学生寮

土地活用の対象は自校の使用分も合わせて6万6000平方メートル―。東京海洋大学は旧東京水産大学の品川キャンパス(同港区)と、旧東京商船大学の越中島キャンパス(同江東区)を合わせ、格別に広い土地の使途を思案する。統合効果が20年超でもいまひとつの中、別々だった入学・卒業式を一度に実施し、さらに国際会議などに貸し出せるアリーナ建設など、土地活用収入を使った施設整備に動こうとしている。

東京海洋大が計画する国際混住寮のイメージ(同大提供)

品川キャンパスで進むのは東急不動産の事業となる分譲マンションと、大和ハウス工業グループが整備する同大の学生向けの国際混住寮だ。舞田正志理事・副学長は「新幹線最寄り駅から徒歩10分、羽田空港もすぐという強みを生かしつつキャンパス整備を進め、教育・研究の質を上げていきたい」と強調している。

東京医科歯科大 再開発 “30年プラン”

東京海洋大と同じく江東区・越中島地区で職員宿舎に使っていた土地の貸与で、多額の一時金を得て湯島キャンパス(同文京区)と駿河台キャンパス(同千代田区)の再開発に乗り出すのは、東京医科歯科大学だ。商業施設やマンションのほか、医・歯学部との協業が見込めるシニアレジデンスや医療・学童保育施設など、野村不動産が手がける越中島の街づくりにはまったことで、収入金額が膨らんだ。

大学病院は一般に収支トントンで、全学の収支バランスへの寄与は実はさほどでない。「エアコンは8割が稼働15年超で、修理部品の保有期間も過ぎているといわれる。蛍光灯もLED化率がまだ2割弱」(広川和憲理事・副学長)と、設備更新ニーズも高い。

10月には東京工業大学と統合して東京科学大学になるため、医工連携や医療データ活用など攻めの設備も必要だ。施設は順に建て替えるため「30年ほどにわたるプランとなる」(同)。用途限定の国の補助金とは異なる自己資金ならではの自由度に夢が広がっている。

日刊工業新聞 2024年05月03日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
国立大の土地活用で、東京学芸大の場合は10数面あったテニスコートに着目したのがポイントの一つです。「なぜそんなにテニスコートが多いのか?」という理由が、師範学校時代に言及されるのもユニークです。用具の開発や普及に貢献があったと聞いて、興味深く思いました。

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