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『コパイロット』が起爆剤!?…「AIパソコン」広がるか

『コパイロット』が起爆剤!?…「AIパソコン」広がるか

NPUを搭載するインテル製コアウルトラプロセッサー搭載の「AIPC」を展示

2024年はAIPC元年と呼ばれている。AIPCとは、人工知能(AI)の推論に使うNPU(ニューラルネットワーク・プロセッシング・ユニット)を搭載したパソコン(PC)を指す場合が多い。端末でAI処理ができ、作業時間の短縮に貢献する。ただ、処理速度を高めるための放熱技術の強化や、AIの使い道の提示は以前からの課題だ。生成AIの活用を後押しするためにも、PC各社はハードウエアとソフトウエアの両面から対策を練る。 (阿部未沙子)

キーボード マイクロソフト「コパイロット」ボタン

ヨドバシカメラ(東京都新宿区)の新宿西口本店(同)には多くのAIPCが店頭に並ぶ。ヨドバシカメラのパソコン専門チーム渡辺陽祐グループリーダーは「多様な世代や年齢層が関心を持っている」と認識する。

実際、AIPCはPC市場の盛り上げ役となりそうだ。米調査会社IDCが3月に発表した調査によると、24年の世界のPC出荷台数は23年比2%増の2億6540万台と推測。AIPCがけん引するとし、28年には2億9220万台に伸びると予想した。

またMM総研(東京都港区)によると、24年の日本国内の出荷台数は23年比4・8%増の約1145万台になるとの見通しだ。

国内で出荷台数が増える背景には、米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ10」のサポートが25年10月に終了予定であることを見据えた買い替え需要などがある。当然、PCメーカーにとっては、AIPCを採用してもらう好機となることは間違いない。

MM総研の中村成希取締役研究部長は「(AIPCが広まる)起爆剤となり得るのが、米マイクロソフトの『コパイロット』ではないか」とみる。コパイロットとは大規模言語モデル(LLM)を用い、利用者が作成したい画像や文章を対話しながら生成する機能。実際、PCメーカーはコパイロットを意識しており、多くのPCがコパイロットを手軽に呼び出せる「コパイロットキー」を24年から搭載している。

放熱機構 ファン増設など熱制御強化 CPU冷却性能重視

ハード面の変更はキーボードだけにとどまらない。AIPCは端末側でAIを処理するため、端末に負荷がかかることが想定される。PCメーカーはNPUを載せたプロセッサーを冷やす放熱機構の強化に力を注ぐ。ダイナブック(東京都江東区)は独自の放熱技術を従来製品と同様にAIPCにも採用する。

「ダイナブックR9」の内部。CPUの特性に合わせて設計を変えている

同社のAIPC「ダイナブックR9」の底面には二つのファンを搭載した。プロセッサーから発生した熱がヒートパイプを経由して、ファンを使い外に放出される。須田淳一郎商品統括部長は「中央演算処理装置(CPU)の特性や能力に合わせてチューニング(調整)を行っている」と語る。

また、デル・テクノロジーズ(東京都千代田区)は法人向けPC「ラティチュード5350」などのAIPCを展開。クライアント製品本部の佐々木邦彦フィールドマーケティング部長も「プロセッサーの世代に応じたサーマルコントロール(熱制御)の設計をしている」と話す。

さらに、日本HP(東京都港区)は法人向けPCのフラッグシップ(旗艦)モデル「HPエリート1000シリーズ」などに搭載するファンを増強した。クライアントビジネス本部の岡宣明CMIT製品部長は「CPUの性能が向上する中で(CPUを)冷やす必要がある。特にAIPCの信頼性を維持するためには熱管理が重要」と説明。発熱を制御することへの各社の力の入れようが分かる。

AIの使い道、利用者に提案 独自のアプリ、差別化に工夫

ただ、PCメーカーに求められているのはAIを快適に使えるようにハード面を整えることだけではない。MM総研の中村取締役研究部長が「(AIPCの普及のために)いわゆる生成AI『チャットGPT』のようなアプリケーションが必要」と指摘するように、AIの使い道を利用者に示すことも重要だ。AIPCの普及を促進するとともに、競合他社との差別化にもつながるためだ。

PC利用者の後方に人が立つと画面に警告を出し、意図しないのぞき見を防ぐほか、オンライン会議時に周囲の雑音を抑制できる「ノイズキャンセリング」でAIを用いる事例が多い。こうした中で独自色を打ち出すのは、富士通クライアントコンピューティング(FCCL、川崎市幸区)だ。

AI技術を用いたキャラクター「ふくまろ」。夕食に悩む話者に対し「候補は何ですかまろ?」と応じ、一緒に考える

FCCLはAI技術を活用したキャラクター「ふくまろ」を展開する。ふくまろに質問すると返答してくれる。コンシューマ事業部第四技術部の若山雄己マネージャーは「かわいく、親しみやすい『情緒的な価値』をPCに入れたい思いがあった」と振り返る。ふくまろはチャットGPTにも対応し従来と比べ質問の意図に沿った回答ができるようになったという。

AIの他の用途としてはオンライン会議時に顔色をよく見せる機能「ユーモア」を搭載し、利用者の顔に口紅やチーク、アイブローなどの化粧を自動で施せるようにした。田中大マーケティング本部商品企画統括部長は「ハードだけでなく、使い方を含めて顧客に提案している」と話す。

このように、各社がさまざまな取り組みをしているが、AIPCの浸透にはもう少し時間がかかりそうだ。ヨドバシカメラパソコン専門チームの渡辺グループリーダーは「(NPUの搭載という)新技術によってできる内容が定まっていないため、AIPCの中身に対する関心はまだ高まっていない」と推測する。さらに、MM総研の中村取締役研究部長は「海外と比べ日本企業は企業内での生成AIの活用によい意味でも慎重」と捉える。

他方、シンクパッドなどを展開するレノボ・ジャパン(東京都千代田区)が「AIはコンピューターと人の対話の仕方を変える可能性を秘めたテクノロジー」というように、期待を寄せる声は大きい。AIPCの広がりはAIが身近な存在になるためのカギとなりそうだ。

日刊工業新聞 2024年05月07日

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