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製薬業界で女性登用が進む

転勤の多さや長時間労働が多く、カギ握る意識改革
 製薬各社が女性の登用に取り組んでいる。数値目標に女性管理職比率を設定する例が多いほか、離職率や勤続年数を指標にする会社も出てきた。ただ製薬業界は転勤の多さや長時間労働といった問題が指摘されてきており、長く働ける制度設計とともに従業員の意識改革が求められている。4月の女性活躍推進法施行を控え、各社は今まで以上に実のある取り組みを進められるか試される。

 各社は軒並み、管理職に占める女性の割合を増やす方針で、現行比2倍前後にするとの意欲的な目標値も散見される。アステラス製薬は4月から在宅勤務制度の改訂や、育児休業前面談の内容見直しを実施。協和発酵キリンは管理職を目指す若手女性社員向けの研修を6月に始めるなど、目標達成に向けた具体策も出てきている。

 勤続期間に着目する会社もある。武田薬品工業は2018年度に、入社10年までの社員の離職率を男女同水準にする目標を設定。第一三共も20年度に、9―11年前に新卒採用された女性の継続雇用割合を男性の同割合で割った数を、0・8にする方針。一定の経験を積んで管理職候補となった女性が結婚や出産などを機に離脱するのを防ぐ意図がうかがえる。

構造問題がネック


 ただ、製薬業界の仕事は厳しい。例えば薬の営業を担う医薬情報担当者(MR)は朝が早い、車を運転して長距離の移動をする、転勤も多いなどとされてきた。「訪問規制や接待禁止の流れでMRの拘束時間は以前ほど長くないが、情報収集で朝7時台に卸の朝礼へ行ったりはしている」(業界関係者)。女性が結婚や出産をした上でこうした構造問題を乗り越え、管理職を目指すのは容易でない。

 MR認定センターの調べでは、15年3月末時点で女性MRのうち40代以上の人の割合は約3%にとどまる。企業側は、みなし労働時間制や地域・時間限定勤務制度の導入などで対策をしているが、運用にはもう一段の工夫が求められそうだ。三菱総合研究所の前田由美主席研究員は、「退職して派遣MRとなった女性にも昇進の機会を増やすことで、管理職の増加が可能になる」と指摘する。

 働きやすさを向上する制度設計に加え、従業員の意識改革が重要とする声もある。「女性社員自身がより上の地位を目指そうとする意識がないと、ライフイベントを乗り越えてキャリアを積んでいくのは難しい」(協和発酵キリン)。各社は研修での啓発などを通じ、こうした価値観をどれだけ浸透できるかが今後の課題となる。
(文=斎藤弘和)

政府、産業界「数値目標にとどまらぬ不断の努力を」


 政府は国が発注する工事や物品購入などの公共調達で、女性の活躍を推進する企業を優遇するための指針を決めた。また4月には、企業などに女性登用の数値目標の設定と公表を義務づける女性活躍推進法が施行される。産業界には施策を先取りするような主体的行動を求めたい。

 公共調達を利用した女性活躍企業の優遇は、試算によれば契約規模5兆円にのぼる。安倍晋三首相は「企業が働き方改革を進める新しいインセンティブ」と意義を強調している。また女性登用の数値目標も意味があるだろう。

 労働力人口の減少に直面している日本にとって、女性の就労拡大が不可欠だとの認識が一般に広がったことを歓迎したい。福利厚生やCSR(企業の社会的責任)的観点を越え、収益・業績に直結する成長戦略としてとらえられるようになったのは大きな変化だ。

 単に人手不足を補うためでなく、多様な経験や価値観を持つ人材が企業に創造力や競争力をもたらす効果が期待される。ただ残念なのは、こうした女性への期待が空回りしている現実である。

 政権が女性の活躍推進の旗を振る一方で、多くの子育て世代は就労継続にほど遠い環境へのいら立ちを募らせている。それを象徴するのが、匿名ブログで注目を集めた待機児童問題だ。

 都市部の自治体の多くは、以前から問題を認識しながら十分な取り組みができていない。国全体でも、働く意欲のある女性の願いを裏切ってきたと言わざるを得ない。与党内には補正予算による支援策を求める案が浮上しているが、今夏の参院選を意識した有権者アピールの印象が強い。

 女性活躍を実効あるものにするためには、就労継続を阻む壁を取り除く地道な努力が官民それぞれに問われる。公的な保育サービス拡充はもとより、長時間労働の見直しや効率的な仕事の進め方を正当に評価する仕組みづくりなど、業界ごと、企業ごとの実情に合った工夫が必要だ。

 法律や指針は、働き方の見直しの一里塚にすぎない。政府にも産業界にも不断の努力を求める。

2016年3月30日ヘルスケア/「社説」
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
男性の自分がコメントをするのは正直憚られるのですが、担当している「理系女性」をテーマにした連載に登場される理系女性の方々の原稿を読むと、みなさんが日々いろいろな思いを抱えながらも目の前の仕事に向き合っています。喜びや葛藤、充実感や徒労感など。また、いろいろな役割をこなすために、いかに時間を大切にしながら、成果を発揮するか―。そのことに力を注いでいるように感じます。だからこそ「働きやすい職場づくりが必要」というのが言いたいわけではなく、そういう強い思いを持っているというのを知るだけで感化される部分があるように思います。正直、男性女性とかを関係なく、「働く」ということの意味を考えさせられます。

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