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「昇降機」施工を省人化、物流・建設「24年問題」影響緩和へ技術導入急ぐ

「昇降機」施工を省人化、物流・建設「24年問題」影響緩和へ技術導入急ぐ

日立ビルシステムはエレベーターの据え付け工事で位置調整を半自動化する技術を開発(レール位置調整装置)

慢性的な人手不足に加え、4月から時間外労働の上限規制による物流や建設業の「2024年問題」の影響を緩和するため、昇降機メーカーが省人化に貢献する施工技術の導入を急いでいる。作業時間の短縮のほか、経験の浅い作業員でもベテランと同等の作業ができるため、施工の効率化の実現につながる。対応が遅くなれば受注機会を損失する恐れもある。(編集委員・小川淳)

日立ビルシステム 位置調整を半自動化

日立製作所子会社の日立ビルシステム(東京都千代田区)は3月、エレベーターの据え付け作業で不可欠な、位置の調整を半自動化する装置を公表した。かごの昇降を支えるガイドレールの位置調整装置のほか、乗り場の敷居(シル)と建物との位置決めを行う装置の2種類で、センサーを使って検出することにより、アクチュエーターで自動的に調整する。従来は作業員がハンマーをたたいて調整していたという。

同社日本事業統括本部の八木伸明主任技師(現施工開発部長)は「高度な専門知識と技能が据え付けには必要」とした上で、開発した装置なら「難しい操作がなく、簡単に据え付けられる」と説明する。従来と比べ当該作業に必要な時間を約3割削減でき、工期の短縮や負担軽減が期待できる。

三菱電機ビルSOL ロープ交換不要に

三菱電機子会社の三菱電機ビルソリューションズ(東京都千代田区)では、高層ビルの建設工期短縮と省資源化に貢献するエレベーターの新工法を開発し、現在建設中の戸田建設の新社屋で初回工事を実施している。

三菱電機ビルソリューションズはロープ交換を不要にする新工法を開発(機械室ユニット)

高層ビル建設時に、本設のエレベーターを仮利用することで作業員や資材を効率的に運ぶ既存の工法において、昇降路内の途中階に設置する巻き上げ機などを収納した仮設の「機械室ユニット」を改良。さらに戸田建設の引き上げ技術を組み合わせた。

従来は、工事の進捗(しんちょく)に合わせて同ユニットを上層階に移設する際には、エレベーターを巻き上げる鋼鉄製のワイヤロープを適切な長さに作業員が交換する必要があった。そのたびにエレベーターを一定期間、停止しなければならなかった。また、工事完了後、ロープは原則的に破棄していた。

新工法では新たに「ロープ繰り出し装置」を搭載した同ユニットを開発し、複数本のロープを同時に繰り出す技術などを確立した。ロープ交換が不要になり、エレベーターの停止期間を従来比3割減らせた。ロープの破棄も発生しない。

同社製造本部の古平大登氏は、現場で新工法を導入することで「強風などイレギュラーな状況は試験棟ではなかなか経験できない。施工案件を増やしながら、知見などを蓄積していきたい」と話している。今後、小型軽量化や部品点数の削減、共通化の推進など、同ユニットの改善を引き続き進める。

フジテック 「乗り場」ユニット

一方、フジテックは22年4月に発足した同社フィールドエンジニアリング本部を中心に、据え付け業務の合理化や自動化・省人化工法の開発を進めている。例えばドアなどエレベーターの乗り場機器をユニット化し、専用ラックに積み込んで工場から出荷する仕組みを考案した。

フジテックはエレベーターの乗り場機器をユニット化し、専用ラックに積み込んで出荷

従来はそれぞれ梱包(こんぽう)して出荷し、現場で荷ほどきをした上、各階に運んでいた。ただ、建設用の専用エレベーターを使う際、各施工会社との間で時間調整が必要なことから「据え付けの実務以外でもかなり時間と労力を使う」(深松伸夫執行役員)。ユニット化で効率化する。

また、高層ビルのエレベーターの施工で作業後半に細かい機器類を取り付ける際は、ゴンドラなどを使うが、これを移動式の作業床に切り替えることで、安全かつ効率的な作業を可能にした。これらの工夫により、一般的に20日間かかっていた施工期間を18日間に削減できた。

さらに、複合現実(MR)グラスを活用し、現実空間に設計データを疑似投影して施工するなど「若年層の教育などで幅広く使うことも検討」(同)している。

日本エレベーター協会によると国内エレベーターの新設は年間2万台超を維持する。大規模再開発などで首都圏では昇降機の需要が伸びている上、24年問題もあり、省人化・無人化の施工技術の推進は引き続き重要課題になりそうだ。

日刊工業新聞 2024年05月03日

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