自動車業界の変革期“照らす”…ランプが急ぐ技術開発、3つのカギ
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)対応、自動運転技術の進展など、自動車業界は「100年に一度」の変革期を迎えている。車両の前・後方を照らしドライバーや周囲の交通参加者らに安全を提供してきたランプ各社も、かつてない変革期を迎え、自社の強みや他社との連携を活用した技術開発を急ぐ。中でもカギになるのが「電動化」「自動運転支援」「新たな商機」だ。国内大手3社の動向を追った。(大原佑美子)
小糸 自動運転支援、ライダー「レベル4」にらむ
ヘッドランプ世界シェアトップの小糸製作所は自動運転支援技術に力を入れる。2018年から協業関係にあり、高性能センサー「LiDAR(ライダー)」の製造・販売を手がける米セプトン(カリフォルニア州)の子会社化を決めた。急速に進む先進技術の開発スピードに乗り遅れないよう意思決定を早くするためだ。
ライダーは対象物までの距離や方向といった位置情報を高精度に測定できる。小糸製作所の島倉浩司常務執行役員は「カメラだけで全車両の状況を把握するのは無理。ライダーやミリ波レーダーなどのセンサーも組み合わせることで自動運転技術は発展していく」とみて、ライダーを新たな柱として育成する。このほど完成車メーカーから特定条件下で運転を完全自動化する「レベル4」に対応した車両の周辺監視用途で短距離ライダーを受注した。
車同士や、車と交通参加者間の「コミュニケーション」に加え、ライティング技術を使ったエンターテインメント領域の開発も急ぐ。「自動運転中」といった車の状態を周囲に知らせるためのランプの色や光らせ方のほか、路面に光で記号を標示するなどの手法を模索。自動運転技術の進展が早い欧州当局に実機で提案するなどして、法整備に向けた取り組みも進める。
急速に次世代自動車の開発を進める中国メーカーは「液晶パネルに文字を映して車外にメッセージを発信するなど、エンタメ系の技術搭載が早い。当社はエンタメ系では後れを取った。急ピッチで開発を進めている」と島倉常務執行役員は明かす。
市光工業 HMI開発、「顔文字」で挙動伝える
仏ヴァレオ傘下の市光工業はレベル4対応の自動運転サービスを見据え、人と機械が情報をやりとりする手段や装置、ソフトウエアを意味する「ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)」分野の開発に注力する。自動運転が実用化されると「運転席の人が前を向いていなくても勝手に車が動く時代になる。歩行者は『車は本当に止まってくれるのか』と不安になる」(宮下和之副社長)と指摘する。
市光工業は車載ランプが車の前方に位置している利点を活用。光で目や口を模した「顔文字」のようなマークを外向けに示し、周囲に挙動を伝えるシステムの開発を進めている。
23年に自動運転サービスを手がけるBOLDLY(ボードリー、東京都港区)と組み、「発進」「停車」「右折」「左折」などを意味するマークを自動運転バス前方のディスプレーに表示し走行する実証実験を行った。宮下副社長は「言葉だとどの国の言語にすれば良いかなどの問題があるので、分かりやすい顔の表情にした」と背景を明かす。実証で得た「このマークは分かりづらかった」といった地域の声を実用化に向けた研究に生かす。
ライティング技術で付加価値を高める一方、「他の技術分野とのコラボレーションで新たな価値創造を目指す」(宮下副社長)としてヴァレオとの協業も強化。ヴァレオが持つ安全運転支援・パワートレーン(駆動装置)・熱管理システムなどの技術とライティングの技術を組み合わせたソリューション開発にも着手した。これらの技術を組み合わせることでセンサーの搭載数が減らせたり、より安全性が高まったりするといった価値創造を想定。2輪車や車いすなどにも技術を広げていく考えだ。
スタンレー電気 浮かぶロゴ、前面・側面「クール」に
スタンレー電気は電気自動車(EV)をターゲットにしたライティング技術でユーザーの付加価値を創造する。テーマは「スマート&クール(賢く、かつ、かっこ良く)」(遠藤雅夫執行役員)。EVのデザインでは、非点灯時は単なるガラスやボディーの一部でランプとしての存在感はないが、点灯時は何もないところが光る、といったかっこ良さを求められることが多いという。
例えば、電源を入れると車のフロント部にブランドのロゴや「Welcome」などのメッセージ、情報が浮かび上がるといった具合だ。光らせ方やどんな情報を表示したいかなどは完成車メーカーごとに異なり、差別化できるポイントとなる。スタンレー電気にとってはソフトウエアの書き換えのみで各車両に付加価値をのせることが可能で、実用化できれば成長をけん引する事業となり得る。
同社は国内完成車メーカーとともに、こうしたニーズに対応する技術を開発中だ。新たなライティング技術を車に採用する際は法規対応とセットとなる。遠藤執行役員は「法規対応は国を動かす話になる。サプライヤー単独で進めるのではなく、OEM(完成車メーカー)と開発段階から一緒に取り組む方が良い」と説明する。
自動運転にも商機を見いだす。「完全自動運転の時代には、もっとコミュニケーションを取らないと人は安心できない」(遠藤執行役員)。同社はライティングの範囲として車両の側面に着目。側面の一部を光らせることで車の存在を伝えたり、停止時には点灯、走行時には流れるようなライティングにしたりするなど「(デザインとしての)車のかっこ良さにもつながる」(同)として実用化に向けて開発に注力する方針だ。
スタンレー電気は25年3月期連結業績予想の売上高で過去最高を見込む。上田啓介常務は「例年、売上高の5%を研究開発費に充てる計画を立てており、25年3月期も相当の投資を実施する」と意気込む。
3社とも顧客の要求を満たすモノづくりを通じて、自動車業界における存在感を維持・向上させてきた。業界が大変革期にある今、車の付加価値を高められる技術を能動的に提案できる力も問われている。
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