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日産・ホンダ・トヨタ…夢の電池「全固体」開発にアクセル

日産・ホンダ・トヨタ…夢の電池「全固体」開発にアクセル

トヨタが出光とEV搭載を目指す全固体電池

全固体電池」への関心が高まっている。カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)を背景に電気自動車(EV)など車の電動化が進展。EVの課題を解決するカギとして世界規模で研究開発が進む。航続距離を延ばし、充電時間短縮やコスト削減が図れる―。〝夢の電池〟をめぐる動きが活発化してきた。

日産 28年度めどに搭載車

日産が横浜工場に建設中の全固体電池のパイロット生産ライン

日産自動車は全固体電池のパイロット生産ラインを横浜工場(横浜市神奈川区)で建設中だ。エンジンやモーターなどを製造する既存工場を改修し、クリーンルームや付帯装置の工事を推進。生産設備を導入し、2025年3月の稼働を目指す。

建設中のパイロット生産ラインは縦135×横75メートルで床面積は約1万平方メートル。「電極」「セル」「モジュール/パック」「化成」の各工程で構成する。投資額は非公表だが年産能力は2000台分に相当する最大100メガワット弱(メガは100万)を計画。200人規模が同ラインで研究開発に当たる。

同ラインで製品・生産技術の開発を進め、26年度から試作車による公道テストを開始する。生産能力や生産性を高め、28年度から長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」で掲げる全固体電池を搭載した新型EVの市場投入を目指す。坂本秀行副社長は「長年、電動車の設計や生産技術に携わってきたが全固体電池が到達点ではないか」とし、「革新的な生産技術の開発と量産適用で電動車の競争力を飛躍的に向上させる」と力を込める。

ホンダ 独自の技術実証へ

ホンダも独自で開発を進める全固体電池の開発加速と技術を“手の内化”するため、栃木県さくら市に430億円を投じ、実証ラインを立ち上げる。20年代後半に投入する次世代EVへの採用を目指している。グローバルで電動化を推進し、40年までのEV・燃料電池車(FCV)でグローバル販売比率100%を目指していく。

トヨタ 出光と特許トップ連合

トヨタと出光は昨年10月に全固体電池に関する協業を発表した(握手する佐藤恒治トヨタ社長㊧と木藤俊一出光社長)

トヨタ自動車は27―28年にもEVに全固体電池を搭載することを目標に掲げる。出光興産をパートナーに選び、両社で数十人規模の特別作業班(タスクフォース)を立ち上げた。量産技術開発や生産体制の確立、サプライチェーン(供給網)構築に取り組む。競争力が高く普及しやすい全固体電池を開発・量産し、EVの市場競争力を高める方針だ。

トヨタと出光では、現行EVに搭載するリチウムイオン電池(LiB)に比べ、体積当たりで2・4倍の航続距離を持つ全固体電池を目指す。

トヨタが出光を共創相手と選んだのには理由がある。それは、出光が持つ材料製造技術だ。同社は1990年代から石油製品の製造過程で発生する硫黄成分に着目。全固体電池の実用化に必要な、柔軟性と密着性が高く、割れにくい固体電解質の開発に2001年から着手している。この固体電解質の特許保有件数は両社が世界トップクラスであり、両社の協業は自然の流れと言える。

トヨタの佐藤恒治社長は「車の未来を変えるカギが自動車とエネルギー産業の連携。両社の力を一つにして全固体電池を量産化し、日本発のイノベーションを実現する」と意気込む。

ゲームチェンジャーの期待高

全固体電池は電解質が液体ではなく固体であるのが特徴だ。エネルギー密度や出力密度がLiBより優れ、電池の内部抵抗が少ないため急速充電にも適している。電解液がないため化学的にも安定し、耐久性や信頼性・安全性にも優れる。EVの充電時間短縮や航続距離の拡大など電池特性を飛躍的に高め、自動車自体の機能や商品性を向上できる。EVの普及を加速する「ゲームチェンジャー」としての期待は高い。日本や欧米の主要な完成車メーカーが量産に向けた計画を公表し、特に世界的に新エネルギー車(NEV)市場が拡大期にある中国でも研究が進む。

ただ電池の品質管理のため、水分の混入を防ぐドライな環境が必要。そのため、製造環境では露点管理が不可欠で量産工場での製造環境・条件を実現する難しさもある。英調査会社グローバルデータは全固体電池の市場拡大に慎重な見通しを持っており、30年時点でグローバルの全固体電池の容量は約2・3ギガワットヘルツ(ギガは10億)と、電池容量全体の2743・8ギガワットヘルツと比べて0・08%のシェアとみている。

導入は27年以降、安全性が普及の課題/マークラインズコンサルティング事業部チーフコンサルタント・木下昌治氏

木下昌治氏

全固体電池は航続距離や充電時間などEVの課題を解決できると期待されている。EVは車が静かで力強さもある。全固体電池の値段が適正な水準で落ち着き普及すれば、時代が一つ変わるだろう。

全固体電池にはタイプがあるが、硫化物を使うタイプが主流となっている。いかに安全性を確保するかが課題だ。現在のLiBでは発火する事故が起きている。電池は燃えると消火が難しい。各社が一般の車に採用するため、慎重に全固体電池の開発を進めている。

世界の完成車メーカーや電池メーカーが全固体電池の開発にしのぎを削っている。全固体電池はEVの課題を解決するカギとなる一方で製造は難しい。実証レベルでの開発が進むが、量産し普及するまでには時間がかかるのではないか。EV市場全体も変調し、潮目が変わっている。27―28年に導入が始まるが、すぐに置き換わるかというとそうではないだろう。(談)


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日刊工業新聞 2024年04月30日

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