M&Aで自社製品拡大…東京エレクトロンデバイス、“技術商社機能を持つメーカー”へ足場固め
東京エレクトロンデバイス(TED)が、目指している“技術商社機能を持つメーカー”へ向け、足場を固めつつある。2021―24年度を対象とする中期経営計画「VISION2025」の業績目標を23年3月期に2年前倒しで達成。24年3月期も技術商社として主力の半導体販売を伸ばしつつ、新たなM&A(合併・買収)で自社製品展開のすそ野を広げた。中計のミッション「デジタル変革(DX)を実現する製品・サービスの提供」が着実に具現化している。
TEDは23年4月、VISION2025の最終年度である25年3月期の業績目標を売上高2500億円以上、売上高経常利益率5・5%以上、株主資本利益率(ROE)20%以上に引き上げた。従来目標は売上高2000億円プラスマイナス10%、売上高経常利益率5%超、ROE15%超だった。
半導体販売の調整局面入りを前提に、24年3月期業績は期初段階で減収減益を予想したが、23年4―9月期連結決算を踏まえて10月に上方修正。売上高を期初予想比200億円増の2500億円、経常利益を同15億円増の135億円、当期利益を同13億円増の97億円とした。増額修正した中計の売上高目標を再度、1年前倒しで達成しそうだ。
TEDの事業分野は、半導体・電子部品やソフトウエアなどを販売するEC(エレクトロニック・コンポーネンツ)事業、ITインフラ・セキュリティー製品などの販売やIT保守・監視サービスを提供するCN(コンピュータシステム関連)事業、モジュール品である基板の設計・量産受託やプライベートブランド製品を開発・販売するPB(プライベートブランド)事業の三つだ。
EC事業は中国経済低迷の影響を受けた産業機器向けの落ち込みを車載機器向けの大幅な伸びでカバー。CN事業はIT投資の堅調な推移に加え、クラウド移行に伴うセキュリティー監視などのストック型ビジネスが好調。PB事業も医療機器向けの設計・量産受託サービスが安定的な成長を示す。
EC事業で懸念された半導体メーカーによる直販化は「想定より限られた範囲にとどまり、逆に需要が膨らむ車載向けで商権拡大もある」(徳重敦之社長)状況だ。ユーザー側の指定で取り扱いが決まるケースもあり「半導体・電子部品を納めるだけではなく、回路設計の受託や基板への実装などの付加価値を提供できる強み」(同)を発揮。メーカーシフトが奏功している。
また、PB事業では自社ブランド『RAYSENS(レイセンス)』で化合物半導体ウエハー検査装置を製品化し、そこから事業領域を広げるため23年10月に日本エレクトロセンサリデバイス(大阪市西区)のシリコンウエハー検査装置事業を譲り受けた。「ウエハー検査装置市場はこれから大きく伸びる」(同)と見て、開発・販売体制の強化を急ぐ。
社長・徳重敦之氏 事業構造転換を加速
“技術商社機能を持つメーカー”を目指す東京エレクトロンデバイス(TED)。好業績をバネに事業構造転換を加速している。技術商社としてクラウド、人工知能(AI)、セキュリティー監視などのサービスビジネスを強化しつつ顧客ニーズを発掘し、デジタル変革(DX)を勢いづける自社製品を提供する戦略をとる。徳重敦之社長に現状と展望を聞いた。
―2023年度は前年度に続き、4―9月期決算時に通期業績見通しを上方修正しました。
「半導体市場は前年度に受注がピークアウトし、24年3月期は調整局面を迎えると予想していた。実際には車載機器向けが一気に動き出したこともあり、それがズレ込んでいる感じだ。産業機器向けは中国経済の停滞が続いてサプライチェーン(供給網)に在庫がたまっている。いずれ影響が出るのは避けられないが、中長期的に右肩上がりで成長していくのは間違いない。産業機器でも好調を持続している分野があり、そこをしっかり押さえていきたい」
―コンピューターシステム関連の収益改善が目立ちます。
「コロナ禍明けで、IT機器自体の需要は一時ほどの勢いはないものの堅調だ。前年度は急激に(為替の)円安が進行して半導体販売の収益を押し上げた半面、コンピューターシステム関連ではコストアップ要因となってマイナスに振れてしまった。今期は為替対策を講じ、成長する事業を収益にきっちり結びつけている」
―自社ブランドを展開する半導体ウエハー検査装置で23年秋、事業買収に踏み切りました。
「(譲受した)日本エレクトロセンサリデバイス(NED、大阪市西区)の事業はシリコンウエハー検査装置だ。当社の従来製品は化合物半導体ウエハー検査装置で直径200ミリメートル対応だったが、NED製品は汎用性が高いシリコンウエハーを直径300ミリメートルまで検査できる。ウエハー検査装置事業拡大には用途とともに、大口径への対応が課題だった。事業買収により技術と人材、顧客基盤を獲得して、大きなシナジーが期待できる」
―製造・販売に必要な許認可を取得した医療機器の開発は。
「体外診断用機器や医療用スマートウエアの開発を進めている。顧客から開発を受託する設計・量産受託サービス体制を充実してODM(相手先ブランドによる設計・生産)を伸ばしていく」
―M&A(合併・買収)の考え方は。
「独自にできることには限界がある。産業界の潜在的なニーズを掘り起こし、DXを実現する製品・サービスをさらに増やしていくには、新たな要素技術が必要になると考えている」(横浜・青柳一弘が担当しました)